成城大学

成城大学

Twitter FaceBook instagram YouTube LINE note
CONTACT EN

過去のプロジェクト

第2部プロジェクト

研究テーマ:経済のデジタル化が進展するもとでの金融制度および税制の望ましいあり方に関する研究(2020‒2022)

【研究の目的】
 情報通信技術(ICT)の革新であらゆる情報がインターネットを介して流通するようになり、さらに人工知能(AI)の発展によってこうした情報の利活用が可能になった。この過程で、財・サービス市場では「シェアリングエコノミー」、労働市場では「ギグエコノミー」といった新しい取引形態が登場するなど、いわゆる「経済のデジタル化」が進行している。「デジタル経済」が機能するためには、実物市場と表裏一体の関係にある金融市場もICTやAIの利活用で高質化されていくことが不可欠である。また税制も、生じうる資源配分の歪みに対処していく必要が生じよう。経済のデジタル化で先行する米国・中国では、決済・融資面でのデジタル・イノベーションが既に進行し、米国では巨大プラットフォーム企業へのデジタル課税の議論も活発である。これに対し、日本では既存のしくみからの転換が遅れており、今後も日本が国際競争力を維持していくためには、経済のデジタル化に対応して金融制度・税制の再構築を図ることが喫緊の課題だと言える。
 以上の問題意識のもと、本研究では以下の2点を明らかにする。第1に、経済学に加えて神経科学の知見も導入し、AIの発展が中長期的に個人や企業の意思決定や行動にもたらしうる変革を明確化する。第2に、我が国金融制度・税制の課題を整理したうえで、標準的な経済学の理論・実証分析の成果をもとに、経済のデジタル化への望ましい対応のあり方に関する有意義な政策提言を行う。具体的には、(1)決済システムの高度化、(2)デジタル化時代に即した金融教育、(3)リテール金融の技術革新、(4)雇用形態に中立的な税制、(5)企業へのデジタル課税などを分析対象とする。
 第2プロジェクトでは、2010年度より一貫して中小企業金融を主たる分析対象として研究を行ってきた。本研究課題でもリテール金融が分析対象に含まれており、その意味でこれまでの研究プロジェクトとの連続性は維持される。

【研究の進め方】
 本研究では、組織内に「AI発展の影響」・「制度インフラ再構築」の2つの研究小グループを設立する。研究計画の1年目にあたる2020年度は、このうち「AI発展の影響」小グループと「制度インフラ再構築」小グループの活動を中心に据え、研究メンバーが各々の担当分野で理論分析ないし実証分析を進める。各自は本学経済研究所が主催するミニシンポジウムで報告を行い、互いの分析についてコメントを交換するとともに、所属学会での論文報告を通じて外部からも広くコメントを集める。それらをもとに内容を改善し、査読誌へ投稿する準備を整える。
 研究期間の2年目にあたる2021年度は、まず研究メンバー間で各自の研究の進捗状況を確認する。各自は前年度の研究成果をまとめた論文を完成させ、必要に応じて匿名の査読者からの改定要求に対応し、年度末までの掲載を目指す。2021年度からは研究組織全体としての成果公表にも取り組み始める。その際、研究組織全体でワークショップを開催し、互いの小グループの研究内容の連携・接続の方向性について共通理解を深める。そのうえで研究成果の整理統合を進め、次年度から政策提言の立案ができる環境を整える。
 研究期間の3年目にあたる2022年度は、研究組織全体としての研究の総括にあてる。具体的には、「AI発展の影響」・「制度インフラ再構築」両小グループの研究成果をもとに、経済のデジタル化への対応に不可欠な高質な「制度的インフラストラクチャー」としての金融制度と税制のあり方に関する政策提言を完成させる。最終的には、各自の研究論文と政策提言を一冊の研究報告書に集約し、研究報告書として刊行することを目指す。

プロジェクト・メンバー(9名)

中田真佐男(リーダー)
明石茂生
内田真人
後藤康雄
花井清人
福島章雄(客員所員)
峯岸信哉(客員所員)
柿原智弘(客員所員)
藤倉孝行(客員所員)

成果

武田 英俊・後藤 康雄(2021.2)「低インフレ下での中央銀行の独立性に関する一考察:日本銀行を中心に」成城大学経済研究所研究報告No.91。
柿原 智弘(2021.3)「日系企業の集積の特徴:メキシコのケース」成城大学経済研究所研究報告No.92。

研究テーマ:持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた金融システムの変貌(2017‒2019年度)

【研究の目的】
 第2部プロジェクトは、2010~2013年度に亘り、「環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援」をテーマとして、近年の世界規模での金融危機を踏まえ、それをもたらした金融グローバリゼーションの負の側面としてわが国を初めとして各国の中小企業に生じた各種困難を取り上げて、実地調査を踏まえた調査研究を実施してきた。
 また2014~2016年度には、この成果を踏まえ、その発展形として、「成長企業支援の金融システムと政府支援の比較研究-成熟経済・成長経済・開発途上経済の課題解決に向けて-」をテーマとして、成熟した経済、成長プロセスにある経済、エマージング経済にカテゴライズした。また企業の発展ステージとマクロ経済の発展ステージを対比して、その課題の整理を試みた。これらの成果はグリーンペーパーで公表されているほか、シンポジウム「アジアにおける中小企業金融の展望:望まれる金融システムの模索」で議論され、年報に掲載される。
 以上のように第2部プロジェクトは、これまで中小企業金融を中心に研究を進めてきた。2017~2019年度のプロジェクトでは、金融システム全体のあり方を、世界的な社会情勢と研究環境の変化の動向に鑑み、現代社会が直面する様々な課題、とりわけグローバル化の質的・量的な増大に伴う社会的・文化的な不平等、格差の拡大・固定を是正し果然する取組との関係で改めて、研究課題として選択した。テーマは「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた金融システムの変貌」とした。これは、さまざまな集団の社会包摂の問題や、環境問題など経済成長の持続可能性の問題など、現在の世界経済の諸課題との関係において、また歴史的な流れの中で金融システムの変貌をとらえ直そうというものである。

【研究の進め方】
 本プロジェクトは、本プロジェクトのこれまでの成果を踏襲・発展させて展開する予定である。2010年以降、研究第2部プロジェクトは、カントリースタディを意識し、メキシコ・ハリスコ州立グアダラハラ大学の日本研究と連携し、その学術交流を進めてきた。その結果として、2015年3月には、同大学と成城大学経済研究所との間で学術交流を積極的に進めて行くことを確認する覚書が結ばれている。またメキシコに限らず、海外への渡航を積極的に行い、現地調査や現地での資料収集に努め、知見を蓄積してきた。数多くの講演会やミニシンポジウムを中心としたさまざまな研究者との交流の輪を広げてもきた。
 このような過去の遺産、とくに制度研究での遺産を継承しつつ、2017~2019年度プロジェクト「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた金融システムの変貌」では、これまでのこのプロジェクトでは必ずしも積極的に扱われなかった、高齢化や国際化に伴う金融システムの課題、あるいはフィンテックなど金融イノベーションの進展に伴う決済の問題など、とくにマクロ的にみた金融システムの研究も積極的に行なう方針である。具体的には、1)海外・国内実地調査、2)国内各種研究機関における当該研究との連携、3)プロジェクト・メンバーによる個別研究を通じて実施する。

プロジェクト・メンバー(10名)

福光寛(リーダー)
明石茂生
内田真人
後藤康雄
中田真佐男
花井清人
福島章雄(客員所員)
峯岸信哉(客員所員)
柿原智弘(客員所員)
藤倉孝行(客員所員)

成果

村本孜(2018)「条件変更債権をめぐる諸問題」成城大学経済研究所研究報告No.79。
小平裕(2018)「金融市場における誘因と情報の問題」成城大学経済研究所研究報告No.80。
Taku Okabe,Karla Liliana Meza Gómez(2018)「Legal framework for industrial property protection and its importance for regional development in Mexico : Challenges and perspectives」成城大学経済研究所研究報告No.81。
Martha Elena Campos Ruiz, Leo Guzman-Anaya, Maria Guadalupe Lugo-Sanchez(2018)「Impact of Japanese direct investment in Mexico : the case of Japanese immigration and automotive industry in Bajio region」成城大学経済研究所研究報告No.82。
小平裕(2019)「検証可能な私的情報と開示」成城大学経済研究所研究報告No.84。
Taku Okabe, Juan Emmanuel Delva Benavides, Ana Virginia Solis Stas, Gelacio Juan Ramón, Gutiérrez Ocegueda, Edgar Gutiérrez Aceves, Salvador Carrillo Regalado(2019)「Changing Mexico: Multidimensional analysis of the current situation of Mexico」成城大学経済研究所研究報告No.85。
長谷川清(2019)「ソーシャルレンディング(日本版 P2P レンディング)の現状と課題」成城大学経済研究所研究報告No.86。
福本勇樹(2020)「日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響」成城大学経済研究所研究報告No.88。
武田英俊・後藤康雄(2020)「暗号資産のマクロ経済統計への反映に向けた検討状況と課題—国際収支統計を中心に—」成城大学経済研究所研究報告No.90。

研究テーマ:成長企業支援の金融システムと政府支援の比較研究-成熟経済・成長経済・開発途上経済の課題解決に向けて- (2014‒2016年度)
私学振興財団学術研究振興資金による研究プロジェクト(2014‒2016年度)「環太平洋地域における中小企業支援施策の比較分析—日本型金融モデルの有効性の検証—

【研究の目的】
 第2部プロジェクトは、2010~2013年度に亘り、「環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援」をテーマとして、近年の世界規模での金融危機を踏まえ、それをもたらした金融グローバリゼーションの負の側面としてわが国を初めとして各国の中小企業に生じた各種困難を取り上げてきた。とくに、政府支援なしに中小企業の経営存続が困難になるとの認識から、とくに中小企業金融に焦点を当てて、その課題等につき、環太平洋地域の各国とりわけエマージング地域を視野に、実地調査を踏まえた調査研究を実施してきた。
 2014~2016年度には、この成果を踏まえ、その発展形として、「成長企業支援の金融システムと政府支援の比較研究-成熟経済・成長経済・開発途上経済の課題解決に向けて-」をテーマとする。これは、中小企業の中でも経済成長に寄与するイノベーティブな企業等に対する金融支援・政策支援を、企業サイド・金融機関サイド・政策金融サイド等から複層的に研究するもので、わが国のみならず、成熟した経済、成長プロセスにある経済、エマージング経済にカテゴライズすることによって、企業の発展ステージとマクロ経済の発展ステージを対比して、その課題を整理することを目的とする。具体的には、Allen,F. and Gale,D.[2000]やDemirgüҫ ‒Kunt, A. and Levine,R.[2001]のアプローチなどを活用する。
 成長企業は、中小企業のみならず、中小企業の発展形である中堅企業・大企業をも視野に含むもので、成長実現のための各種課題も視野に含むことになるほか、中小企業というすぐれて地域経済に立脚する視点からは「グローカル」という切り口も重要である。
 金融分野のイノベーションがグローバリゼーションの進行と共に発展し、成長企業支援の上でも証券化、ABL(Asset‒Based Lending)、電子記録債権、ファンド、コベナンツ融資、知的資産レポーティングなどの活用が進んでおり、これらを中心としたものが具体的な研究対象例となる。
【研究の進め方】
 本プロジェクトは、従来のプロジェクト研究の方式を踏襲・発展させて展開する予定である。2010年以降、研究第2部プロジェクトは、カントリースタディを意識し、メキシコ・グアダラハラ大学の日本研究と連携し、その学術交流を進めてきた経緯がある。ミニシンポジウムを中心とした研究者同士の交流積極的に行なうと共に、本研究所所員・研究員をグアダラハラ大学に派遣し、研究交流を行なったほか、研究員が客員教授・客員研究員として招聘され、継続的に研究を行なってきた。その成果は「研究報告」に逐次発表されてきた。また、ベトナムにも実地調査を行ない、本邦ベトナム研究者を招聘してミニシンポジウムを開催することによって、知見を蓄積してきた。その成果も「研究報告」に逐次発表されてきたところである。
 2014~2016年度プロジェクトでも、従来、実現してこなかった成熟経済地域の研究も積極的に行ない、従来の研究との比較研究を行なう。具体的には、 1)海外調査、2)国内各種研究機関における当該研究との連携、3)プロジェクト・メンバーによる個別研究を通じて実施する。

プロジェクト・メンバー(10名)

福光寛(リーダー)
明石茂生
内田真人
小平裕
中田真佐男
花井清人
福島章雄(客員所員)
藤倉孝行(客員所員)
峯岸信哉(客員所員)
柿原智弘(研究員)

成果

福光寛 (2014)「中国のシャドーバンクをどうとらえるか-さまざまな定義の併存 肯定説と中小企業金融への貢献説-」成城大学経済研究所研究報告No.68。
福光寛 (2015)「中国の銀行理財についての規制」成城大学経済研究所研究報告No.69。
村本孜 (2015)「成城大学経済研究所モノグラフシリーズNo.4 中小企業支援・政策システム-金融を中心とした体系化」蒼天社出版。
村本孜 (2015)「民法改正と個人保証— 議論の整理:中小企業金融との関連において—」成城大学経済研究所研究報告No.71。
María Guadalupe Lugo Sánchez, Salvador Carrillo Regalado, Rafael González Bravo, Leo Guzman-Anaya(2016)「Economic impact of Economic Partnership Agreement Mexico – Japan– theoretical and empirical aspects –」成城大学経済研究所研究報告No.72。
J. Jesus Arroyo Alejandre, Erika Elizabeth Sandoval Magaña, Martha Elena Campos Ruíz, María Guadalupe Limón Herrera, Antonio Mackintosh R., Taku Okabe,(2016)「Regional development and internationalization of Mexico」成城大学経済研究所研究報告No.73。
王東明 (2016)「中国株式市場の形成と発展のロジックを考える—「移行経済型市場」の形成を中心に—」成城大学経済研究所研究報告No.74。
陳玉雄(2017)「中国における「民間貸借」の発展とその論理」成城大学経済研究所研究報告No.76。
柿原智弘(2017)「産業集積と投資環境の変化—メキシコ中央高原地域の日系自動車企業のケース—」成城大学経済研究所研究報告No.77。
舟橋學(2017)「ベトナム中小企業—成長要因と支援政策—」成城大学経済研究所年報第30号pp.73-101。

研究テーマ:環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援(2012‒2013年度)

研究第2部では、「環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援」というテーマの下に研究を進める。
近年、世界規模で未曾有の金融危機が発生し、わが国を含め各国の中小企業は政府支援なしでは経営の継続が難しい状況に陥っている。また、わが国の低成長への移行や繰り返される世界的マクロショックの中で、制度や慣習といった各国経済事情、金融現場に根ざしたシステムの再構築の重要性が活発に議論されている。 そこで本研究では、第一に世界の中小企業金融における諸課題をどう克服すべきか、第二に、エマージング国の今後の中小企業支援において日本の高度経済成長での経験がどのように活かされ得るかについて、主に環太平洋地域の事例に基づいて分析することを目的とする。
過去2年に渡り、同テーマのプロジェクトにおいて、環太平洋地域における中小企業金融、政府支援、国際経済問題を意識しつつ、カントリースタディ、中小企業金融研究を進めた。メキシコ・グアダラハラ大学とのミニ・シンポジウムを含み、計8回のミニ・シンポジウムを実施し、成果の一部は「成城大学経済研究所研究報告」およびグリーン・ ペーパーに掲載されている。
こうした研究的蓄積を基に、本研究では以下のプロジェクトを実施し、本研究テーマの総仕上げを行う予定である。 第一に、間接金融中心の日本型システムと直接金融や市場型間接金融の割合の高いアメリカ型システムとを比較し、これらの環太平洋地域各国における有効性をデータ分析する。このプロジェクトの重要性は、今回の金融危機を契機に、先進的と見られていたアメリカ的アプローチについて中小企業金融面でも大幅な修正をせざるを得なくなってきたことからも窺える。第二に、経済の効率性を保つ上で、如何に貸し手・借り手間での情報の非対称性を緩和し、借り手の返済能力を評価するかが重要な課題の一つである。そのため、先進国では情報開示・ガバナンスの強化、途上国ではマイクロファイナンスなどの対応策が実施された。これらの対策の効果と課題を追求するため既存制度の比較研究を行う。第三に、中小企業金融面での国を越えた地域協力の可能性も研究課題として含める。
グアダラハラ大学との間の学術交流は継続・発展させ、ミニ・シンポジウムでアジアでの中小企業の可能性について議論を深める。さらに、新たな研究協力者を迎え研究の充実を図る。

プロジェクト・メンバー(14名):

福光寛(リーダー)
明石茂生
内田真人
小平裕
小宮路雅博
塘誠
中田真佐男
花井清人
林幸司
平野創
村本孜
柿原智弘
福島章雄
峯岸信哉

成果

中田真佐男 (2012)「消費者による少額決済手段選択の現状:アンケート調査を用いた分析」成城大学経済研究所研究報告№59。
駒形哲哉(2012)「中国の社会主義市場経済と中小企業金融」成城大学経済研究所研究報告№60。
青山和正(2013)「べトナムの中小企業政策に関する研究-ベトナムの中小企業振興施策の現状と課題-」成城大学経済研究所研究報告№61。
Alejandre, Jesus Arroyo, and David Rodriguez Alvarez (2013) "Socio‒Economic Regional Development in Mexico 2000‒2010," in Alejandre et al., Regional development in Mexico—socio‒economic regional development and foreign direct investment— ,Green Paper №63, I.E.S. Seijo University, pp.1‒30.
Regalado, Salvador Carrillo, Taku Okabe, and Tomohiro Kakihara (2013) 「日本直接投資のための地域的要因:メキシコ・ハリスコ州の事例」 in Alejandre et al., Regional development in Mexico—socio‒economic regional development and foreign direct investment— ,Green Paper №63, I.E.S. Seijo University, pp.31‒92.
福光寛 (2013)「中国概念股の危機はなぜ生じたのか」成城大学経済研究所研究報告№64。
村本孜 (2013)「中小企業憲章の制定とその意義—中小企業政策のイノベーション—」成城大学経済研究所研究報告№65。
長谷川清 (2013)「リレーションシップバンキング行政の成果と課題」成城大学経済研究所研究報告№66。

研究テーマ:イノベーション・システムのガバナンス(2009~2011年度)

研究テーマ:環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援(2010~2011年度)

① 21世紀の経済システムを理解する上で重要とされる概念に、環境、情報、ナノテク等と並んでイノベーションが挙げられる。イノベーションは経済分野では技術革新として、経営分野では経営戦略・経営革新として理解されているが、社会全体の革新をイノベーションとして捉えることもあるし、個人・生活者に落とし込んで生活革新・個人革新として整理されることもある。イノベーションは、単なる「革新」ではなく、「知識創造による新価値の創出」あるいは「知識創造によって達成される技術革新や経営革新などにより新価値を創造する行為」とでもいうべきもので、「個人や企業などの組織が新しいと知覚するアイデア、行動様式、物品」ということもできる。
 イノベーションを社会科学的に対象とする場合には、学際的研究が不可欠となるが、その理解にはガバナンス構造の観点からの整理が有効となる。ガバナンスとは、近年、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の確立との関連で注目されるが、それは「社会は誰のためにあるのか」「経営のチェックは誰の手によって行われるのか」というような疑問を企業制度の原点まで立ち戻って考える研究分野である。1980年代まで順調な発展を遂げてきた日本では、それほどの重要性を認められていなかった分野であるが、経済システムの転換期を迎えるに従い、日本でも注目を集めるようになり、その研究対象として企業制度、雇用、経営者の権限、監査、株主総会、資本市場、国際投資など大きな広がりをもっているため、企業経営、労働経済、マネイジメント論、会計学、商法・会社法、証券市場論、金融論、国際関係論など経済学・経営学・会計学・法学・政策学などその学問領域は多岐に亘る。
 本研究は、イノベーションを理解する上で、ガバナンスを共通のメジャーとして捉え、イノベーションの進展する中で、新たなガバナンス問題の整理と発掘を行なうとともに、経済学・経営学・法学・政策学などの研究成果を多面的に活用して、イノベーション・システムの確立とその下でのガバナンス問題を企業および法人、政府と民間、政府間、国際間の問題として再整理し、ガバナンス構造の新たな展開をLaw and Economics の観点から行なうものである。
② イノベーション・システムの研究という総括的研究を基礎に、その上でガバナンス問題を考察する。研究計画期間は3年とし、研究の実施体制は3つのプロジェクト・チームによる個別研究と、総括責任者の下に置く横断研究とによって構成する。3つのチームは、
 1)イノベーションと企業ガバナンス:
 新制度派経済学を踏まえ、そのガバナンス構造の変革を分析する。本研究計画の中核的部分で、すでに法学部における「EC企業法判例研究」プロジェクトの成果などを取り込む
 2)イノベーションと金融機関のガバナンス:
 金融システムが金融機関と資本市場の複線的システムに移行するという金融イノベーションの中で、金融システムの企業ガバナンスに与える影響は変化する構造に力点を置く
 3)イノベーションと政府・国際間ガバナンス:
 政府の政策に対する民間のチェックなどを、独立行政法人の展開という新たな側面に注目し、評価制度などを分析する
で構成する。
平成20年度においては、前期に一回、ミニシンポ,及び講演会を開催した。
〔年度ごとの研究計画〕
③ 平成21年度
 本年度は、昨年度の研究成果を踏まえて、各チームごとに以下のテーマの調査研究を進める。
1)イノベーションと企業ガバナンス・チーム
 ・諸外国におけるガバナンスの論議:2003年OECD企業ガバナンス原則など
 ・わが国の商法改正と企業ガバナンス
2)イノベーションと金融機関のガバナンス・チーム
 ・金融システムの変革とガバナンス構造(単線的システムから複線的システムへ)
 ・企業ガバナンスの実証研究⇒イノベーション活動とガバナンス構造の関係の仮説検定
3)イノベーションと政府・国際間ガバナンス・チーム
 ・独立行政法人化に伴う課題に注目し、評価制度などを分析
 ・本研究所で実施してきた「グローバル資本主義の現状とその展開」の発展、地域経済統合とガバナンス
 各プロジェクト・チームの研究成果を中間報告として公表する。
④ 平成22年度
 平成21年度に抽出したイノベーションの促進あるいは阻害に関連が深いテーマについて、定量的および定性的に制度や機構に関する分析を行う。企業等における活動の範囲にせよ知識・情報の流通にせよグローバリゼーションが進展していることから、当該年度においては、制度や機構に関する国際比較あるいは制度の国際協調といったことにも分析を拡大することを目標とする。異なる制度間にわたる共通した課題を見いだすことなどもめざしてワークショップ等を通じて議論を進め、研究成果については、ディスカッション・ペーパー等に取り纏めるほか、『経済研究所 研究報告』として発表したり、学会や論文誌等において個別に発表を行ったりする。
⑤ 平成23年度
 最終年度は、2年間にわたる各チームごとの研究を総合する横断的研究に注力し、イノベーション・システムとガバナンス問題について展望を行う。
 ・イノベーションの展開を、理論的・制度的・歴史的に分析することを主軸とし、ガバナンスの観点からの関連を整理し、イノベーション・システムの確立過程でガバナンスがいかに適用され、その有効性を発揮するのかを分析する
 ・その際、ガバナンスが企業・政府・国際の各局面においてそれらのステークホルダーの利害をいかに調整するのかを分析し、その評価基準を解明する
以上の2点についてとりまとめを行い、具体的成果を冊子の形で公表する。
〔外部機関および外部機関からの研究受託〕
 ・ガバナンス研究については、早稲田大学ファナンス総合研究所などの先行研究もあり、財務省財政総合政策研究所、ニッセイ基礎研究所との共同研究もあるので、これら機関ないしそれ以外の機関と、可能な限り提携し、受託研究の可能性を探る。

第2部の研究事業を発展させるため、分科会の形成で、新しく「環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援」とのテーマで研究計画を立ち上げた。このプロジェクトは、第一に世界の中小企業金融における諸課題をどう克服すべきか、第二にエマージング国の今後の中小企業支援において日本の高度経済成長での経験がどのように活かされ得るかについて、主に環太平洋地域の事例に基づいて分析することを目的とする(本テーマの研究期間は平成22年度から平成23年度まで)。
[年度ごとの研究計画]
(平成21年度まで)
 本テーマは、平成17年グアダラハラ大学セラトス教授の本研究所での講演会(The Economic Partnership Agreement Japan‒Mexico)が出発点となっている。研究会後、所員は環太平洋地域における中小企業金融、政府支援、国際経済問題を意識しつつ、カントリースタディ、中小企業金融の研究を進めてきている。また、平成21年3月には、グアダラハラ大学との間でミニシンポジウムを行い、わが国の中小企業政策や資本の根雪化、リレーションバンキングの可能性、メキシコの中小企業金融の現状と課題などについて議論した(ミニシンポジウムの研究成果については、グアダラハラ大学と共同で平成22年夏に英文での出版を予定)。また、平成21年11月には、本研究所はグアダラハラ大学と2回目のミニシンポジウムを成城大学で開催した(本ミニシンポジウムの研究成果についても「成城大学経済研究所研究報告」(英文)として対外公表の予定)。
(平成22年度)
環太平洋地域から複数の国における中小企業金融に関するカントリースタディを行う。日本については、中小企業金融に関する政策や課題の分析に止まらず、低成長へ移行する中で、資金の出し手は中小企業の成長予測性の判断をいかに高めるか、高度成長期以降の経験から今後エマージング国で活用できる施策がないかを探索する。また、分析の対象地域は、日本・メキシコから中国、タイ、ベトナム等広く環太平洋地域に広げる。また、海外の現地調査を通じて金融現場の意見を直接聴取する。この間、グアダラハラ大学との間でのミニシンポジウム形式での学術交流は継続・発展させ、第3回目のミニシンポジウムでアジアでの中小企業の可能性について議論を行う。

プロジェクト・メンバー(16名):

小平裕(リーダー)
相原章
明石茂生
浅井良夫
伊地知寛博
岩崎尚人
上田晋一
内田真人
大隈宏
篠原光伸
庄司匡宏
杉本義行
手塚公登
花井清人
福光寛
山重芳子

成果

明石茂生・柿原智弘 (2012)「日系企業のメキシコ進出:ハリスコ州の事例を中心に」
成城大学経済研究所研究報告№57。
大隈宏(2012)「EUとミレニアム開発目標-グローバル・パートナーシップ模索-」
成城大学経済研究所研究報告№56。
Reynoso, Carlos Fong (2010) "The SME in Mexico: Models for Starting Companies that will Succeed, In Particular Born Global and Spin‒off Firms," in Reynoso et al.,Some Issues of the Medium‒and Small‒Sized Enterprises in Mexico,Green Paper №54, I.E.S.Seijo University, pp.1‒25.
Okabe, Taku (2010) "Regulatory Framework of Corporate Governance in Mexico‒Challenges of the New Securities Exchange Act of 2006 and its Effects‒," in et al., Some Issues of the Medium‒and Small‒Sized Enterprises in Mexico,Green Paper №54, I.E.S.Seijo University, pp.27‒47.
Fukushima, Akio (2010) "Utilization of Direct Investment by Small and Medium Enterprises in Japan‒Focusing on Venture Investment from SMRJ‒," in Reynoso et al., Some Issues of the Medium‒and Small‒Sized Enterprises in Mexico,Green Paper №54, I.E.S.Seijo University, pp.49‒62.
Kakihara, Tomohiro (2010) "The Small and Medium Sized Enterprises(SMEs) in Mexico:the Case of Jalisco State," in Reynoso et al., Some Issues of the Medium‒and Small‒Sized Enterprises in Mexico,Green Paper №54, I.E.S.Seijo University, pp.63-74.
数阪孝志 (2010)「地銀決算にみる地域金融の問題点」成城大学経済研究所研究報告№53。