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第1部プロジェクト

研究テーマ:「対立」と「結びつき」の政治経済史—グローバルヒストリー再考(2)(2021-2023年度)

【研究の目的】
 1980年代以降、冷戦構造の解体や、多国籍企業活動の展開、金融自由化、インターネットの普及など、国境の枠組みを超えた様々な活動により、それまでの一国史的な世界の捉え方は再考をせまられることとなった。こうした背景の下、社会経済的事象をグローバルな視点から捉えようとする、グローバルヒストリーが、新たな方法として提起されてきた。このような視野は、世界の多様性を認めつつ、一つに「収斂」されていこうとする世界のあり方を、根本から問い直そうとするものであったであろう。そしてそれは,国民国家を単位として「対立」し合ってきた世界が、どのように再構成されていくのかについて、新たな展望を示そうとするものであっただろう。
 他方、2019年より全世界に広がったコロナウイルス感染症は、国境の枠組みを越えた活動に大きな制限をもたらし、「グローバル化」が存立する前提そのものを揺るがしている。このような中で、世界は以前のような「対立」し合ってきた状態へと戻っていくのであろうか。それとも、「対立」を乗り越えた新たなグローバル化を展望しうるのであろうか。その中で浮上するのは、グローバルヒストリーを、「対立」と並行して展開する社会経済的事象の「結びつき」という視点から捉え直す方法である。
 第一部プロジェクトでは、これまで、「グローバルヒストリー再考」というテーマを設定し、グローバル化によって進展する共通化・普遍化の中で、分断されながら再構成されていく文明の諸相を明らかにすることに挑戦してきた。本プロジェクトでは、その続編として、世界の社会経済的事象を「対立」と「結びつき」の相互関係の視点から、金融と財政・社会経済思想とその受容・宗教活動・環境、という四つのアプローチにより、各プロジェクト参加者の専門に即しながら研究を進めていく。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、以下の四つの具体的なアプローチを設定し、研究を進めていく。
 第一に、金融と財政からの考察である。国家と商人は金融財政面で協力し、または対立して、財政貨幣や国際的決済手段の創造を通じて資金循環の構築に関与してきた。ここでは、17・18世紀オランダ・イギリスないしは江戸期から現代の日本に焦点をあてて、貨幣・決済システムを通じた国家と商人(市場)の関係と、政府間(国と地方、連邦と州など)での租税システムの模索について再考する。
 第二に、社会経済思想とその受容からの分析である。18世紀末のイギリスの支配構造は,自由・平等・博愛を掲げたフランス革命,さらにインドから巨富を持ち込んだネイボブの支配層への食い込みによって大きな衝撃を受けた。ここでは,まず植民地インドと隣国フランスからの影響に共通の禍害を見出すエドマンド・バークと、18世紀アイルランドのリネン業の発展をイギリスやアイルランドの支配層が推進した思想的背景の視点から、帝国の危機を考察する。また、20世紀末の「ポストモダン」思想が、フランスの哲学者など西欧の知識人がヨーロッパ近代社会の活力低下を「大きな物語の終焉」として表現する一方、21世紀の現在、中国の覇権の拡張による世界社会のはるかに「大きな物語」が展開していることを踏まえ、それにともなう、近代的価値観、政治思想、経済体制、インフラ整備、国際機関、文化創出におよぶ巨大な変動に即した社会経済思想についても考究していく。
 第三に、宗教活動からの分析である。古くから国家の枠組みを越えた社会経済活動を行ってきた宗教活動は、国民国家間を結びつける典型例として捉えることができる。ここでは、特にキリスト教・仏教の宣教ミッションの視点から、グローバル化と現地化の諸相について検討していく。
 第四に,環境からの分析である。資源や環境問題の調整は,問題の態様や,取り組み方に歴史的な発展がある。ここでは,特にグローバルな木材貿易が,諸地域の森林管理制度にもたらす変化や,そのための学知の普及や現地化について検討していく。
 第1プロジェクトは、2018~2020年度にかけて「グローバルヒストリー再考」をテーマに、ほぼ全てのメンバーが自らの研究をミニ・シンポで報告し、プロジェクトに属していない多くの方々のご参加もいただきながら活発な議論を展開し、研究を多方面から深めることができた。本プロジェクトにおいても、メンバーによる調査・報告・研究成果公表の機会をできるだけ多く確保するとともに、学外からの研究者もミニ・シンポにお呼びして、研究交流を深めていく予定である。

プロジェクト・メンバー(7名)

林 幸司(リーダー)
青木健
明石茂生
竹田泉
立川潔
花井清人
村田裕志

成果

青木 健(2022.3)「明治末~大正前期の林業教育と労働市場 ─ 開校初期の盛岡高等農林学校の学卒者の事例 ─」成城大学経済研究所研究報告No.94。

研究テーマ:グローバルヒストリー再考:文明からみる世界経済史 (2018‒2020年度)

【研究の目的】
 1980年代以降、冷戦構造の解体や、多国籍企業活動の展開、金融自由化、インターネットの普及など、国境の枠組みを超えた様々な活動により、それまでの一国史的な世界の捉え方は再考をせまられることとなった。こうした背景の下、社会経済的事象をグローバルな視点から捉えようとする、グローバルヒストリーが、新たな方法として提起されてきた。
 グローバルヒストリーには、多くの解釈や方法が存在するが、世界の多様性を認めるとともに、アクターの間での境界を重視せず、むしろこれらをとり結ぶ関係に注目し、これらを貫く普遍的歴史観を追求しようとするという点が、特徴と言える。しかしながら、近年グローバルヒストリーの内部から「行きすぎた」グローバルヒストリー(=境界を取り払った歴史)を批判する動きが見られる。すなわち、ナショナル、リージョナル、ローカルな視点が、グローバルな関係を分析する中で重要であるとするものである。一例を挙げるならば、スベン・ベッカートによる綿(モノ)に着目した資本主義分析では、資本主義のもとでの労働形態は賃労働だけではなく、奴隷労働などの強制労働など「暴力的」な要素が含まれる。その「暴力」に国や地域が大きく関与しているだけでなく、そこには権力関係、利害関係があり、それなしでは綿のグローバルな動きは説明できないとする。異なる地域の事象や歴史展開のあいだの関係を見ようとするグローバルヒストリーは、逆説的ではあるが、産品や経済制度、思想、文化など、各地域の「文明」の固有性に関心を寄せることで、はじめて展開することが可能となる。そして、それぞれが独自に展開をみせている地域の寄せ集めにみえる世界経済も、ひとつのまとまりとして包括的な理解が可能となる。このような視点は、グローバル化によって進展する共通化・普遍化の中で、分断されながら再構成されていく文明の諸相を明らかにすることにもつながるであろう。
 このような現状を踏まえて、本プロジェクトでは、グローバルヒストリーを文明と世界経済史の視点から再考するため、金融と通貨、経済思想と制度、産業と開発のアプローチから、各プロジェクト参加者の専門に即しながら研究を進める。

【研究の進め方】
 上記のように、本プロジェクトでは、グローバルヒストリーの持つ多様かつ普遍的な歴史観を受容しつつ、各地域の「文明」の固有性に注目しながら個別具体的な分析をすすめ、グローバルヒストリーの批判的継承をはかることを目的とする。このため本プロジェクトでは、以下の三つの具体的なアプローチを設定し、研究を進めていく。
 第一に、金融と通貨からの考察である。古来より文明を構成する際に不可欠な要素でありつづける通貨は、国境の枠組みを容易に超えるものであるとともに、国家による規制と統制を受けるものでもある。ここでは、古代から現代へといたる金融と通貨という視点を設定し、グローバル化と文明の固有性がいかに切り結んでいったかについて検討する。
 第二に、経済思想と制度からの分析である。思想史および制度史の分野でも、方法論的な一国主義—国民的な観念から定義された国家と国家に拘束された国民の歴史—を超えて、国際論的転回を遂げようとする潮流が大きくなってきた。国境や大洋を越えた国際思想の伝播と受容の歴史を扱ったアーミテイジの『思想のグローバルヒストリー』はその典型であろう。このような研究に学びながら、一国主義に偏りがちであった思想・制度史の再検討を試みる。
 第三に、産業と開発の視点からの考察である。異なる文明の固有性をグローバルヒストリーの視野から位置づける際には、経済活動の成果としての産品をめぐる関係に注目するとともに、これらの関係が各国の経済開発にどのような影響を与えたかについても、俯瞰的に捉えることが重要である。ここでは、産業と開発という視点を設定し、産品の生産・消費およびこれらをめぐる権力関係のみならず、その国際的展開と経済政策への影響にまで関心を広げて、分析をすすめていく。
 第1プロジェクトは、2015~2017年度にかけて「成熟経済の歴史的位相」をテーマに、ほぼ全てのメンバーが自らの研究をミニ・シンポで報告し、プロジェクト・メンバーだけではなく、プロジェクトに属していない多くの先生方や学外者の方の参加をいただいて、活発な議論を展開し、研究を多方面から深めることができた。本プロジェクトにおいても、メンバーによる報告や研究成果公表の機会をできるだけ多く確保するとともに、学外からの研究者もミニ・シンポにお呼びして、研究交流を深めていく予定である。

プロジェクト・メンバー(7名)

林幸司(リーダー)
明石茂生
竹田泉
立川潔
花井清人
村田裕志
角田俊男(客員所員)

成果

新倉貴仁(2018)「「能率」の共同体-第一次大戦後から高度成長期までのミドルクラスとナショナリズム-」成城大学経済研究所年報第31号pp.5-30。

研究テーマ:成熟経済の歴史的位相(2015~2017年度)

「失われた20年」という言葉に象徴される閉塞感を背景にして,日本経済の構造的な行き詰まりが広く叫ばれるようになった。規格化された製品の大量生産で成長をめざすこれまでの日本経済のあり方は新興国との競争で立ちゆかなくなった,また高度成長期に形成されてきた終身雇用・男性正社員中心の就業構造は限界に達している,さらに時間あたりの労働生産性の低下の進行はもはや長時間労働で生産性を確保することを不可能にしている,このような認識の下に,大量生産・価格競争モデルから成熟を力とした価値創造モデルへの転換など,論者によってその力点の違いはあれ,これまでの経済から脱却した新しい経済モデルを必要としている段階として「成熟経済」という概念が広く用いられている。このような認識は,成長ヴィジョンとしてクール・ジャパンに象徴されるような成熟に裏打ちされた日本人の感性や技術力の発揮をベースとした「成熟を力とした」価値創造経済の創出や,イノベーション人材やグローバル人材という価値創造をリードする多様な人材を広く育成しワーカーからプレーヤーへの働き方の改革などの提言に見られるところであろう。もちろん,このような構造的な行き詰まりはたんに日本だけに特有なものはなく,いわゆるニュー・エコノミーに転換した先進国が共通に抱える問題であり,上記の提言はそれに対する対応の一つというべきであろう。
 このような現状をふまえて本プロジェクトでは成熟経済の歴史的位相をテーマとする。あらためて成熟経済という概念と実相は,いかなる時代の終焉を意味し,またどのような転換をもたらすのか,思想史・学史的比較,グローバリズム化とニュー・エコノミー化,あるいは福祉社会化いう歴史的視点,あるいは国際金融システムをも視野に入れて,立体的・歴史的に位置づけていく。そのため,本プロジェクトは次のような二つのアプローチに基づいて考察を進めていく。第一は,成熟経済の成立を歴史的,思想的な観点から考察していく。そこでは歴史的に成熟経済の形成ならびに思想的な出自が検討されるであろう。さらに第二に,いわゆる成熟経済の下での経済制度や政策のあり方の特徴について考察していく。この変化に制度や政策,さらに市場はどのように対応していこうとしているのか実証的に明らかにする。これら二つのアプローチから各プロジェクト参加者の専門に即しながら研究を進める。

プロジェクト・メンバー(7名):

花井清人(リーダー)
明石茂生
浅井良夫
立川潔
林幸司
村田裕志
角田俊男(客員所員)

成果

明石茂生 (2015)「古代メソポタミアにおける市場,国家,貨幣-商人的経済再考-」成城大学経済研究所年報第28号pp.163-236。
林幸司(2017)「日中戦争下の銀行業—抗戦首都重慶における経済制度変容の視点から」成城大学経済研究所研究報告№83。

研究テーマ:市場と統治-経済システムの長期的変動に関する歴史分析-(2012〜2014年度)

リーマン・ショック後の今日,いまだに「金融暴走」が実体経済に深刻な影響を及ぼし続けているだけではなく,統治のあり方に甚大な影響を及ぼしていることも明らかになってきている。中東・北アフリカ革命が世界的不況の深刻な影響と密接に関連していることは言うまでもない。また,ギリシアをはじめとするEU加盟国の深刻な債務超過問題は,当該国の国債を大量保有しているヨーロッパの諸銀行の信用収縮を通じて,実体経済に深刻な影響を及ぼすことが懸念されているだけではなく,EUそれ自体の存在にすら暗い影を落とすまでに至っている。先日,アメリカが台湾に新型戦闘機の売却を見送った背景には,武器売却それ自体の是非はともあれ,中国による米国債の大量保有がアメリカのアジア戦略の見直しを迫るまで至っていることを示していると言えよう。このように「金融暴走」が世界不況という実体経済への深刻な影響だけではなく,統治のあり方それ自体に激震を与えていることが今日的な特徴的であろう。現在、問題は金融市場に集中的に起きているが、根本的には、市場経済と統治のあり方との間に、大きな亀裂が生じつつあるということだと解釈できる。
 そこで、本プロジェクトでは、「市場と統治」という視角を設定し、歴史的な分析を行いたい。
かつて、「国家と市場」という視角から、さまざまな研究、議論が展開されていた時期があった。1980年代にマネタリズムが台頭し、90年前後に社会主義国が相次いで崩壊した頃である。市場と国家とのかかわり方を基準に、アングロ・サクソン型資本主義とライン型資本主義という類型化も行われた。現在から見れば、このような問題の立て方は、国家と市場とを対立的にとらえ、規制VS自由化という二項対立に単純化する議論であったと言わなければならないだろう。また、この議論は、せいぜい300年の歴史しか持たない「国民国家」という枠組みを絶対的で不変な存在として見る議論でもある。国境を一瞬のうちに越えて動く金融に国家が振り回させる現状を見るとき「国民国家」という枠組みの再検討は不可避であろう。
 このプロジェクトでは、「統治」をつぎの2つの観点からとらえている。第1は、統治は国家理性による統治、経済主体による統治、理念・思想による統治などの重層的な構造を形成している。この観点は、ミシェル・フーコーからヒントを得ている。第2は、国家や帝国、あるいは国際経済システムを、1つのライフサイクルを持つ存在として、その変化のダイナミズムをとらえるという観点である。
本プロジェクトは、具体的には、以下のようなテーマに取り組む予定である。
①近代社会における統治は「生政治」(フーコー)であり、人口、保健、衛生の合理化についての解明が不可欠である。そこで、比較的研究条件が整っている、西欧および東アジアの近代についてこの問題を検討する。
②フランスの歴史家ブローデルが示したような超長期的なタイムスパンから、帝国や国家の統治とそのライフサイクルのダイナミズムを、市場経済との関連で検討する。また、アメリカを中心とする経済システムや、ケインズ主義的福祉国家のライフサイクルといった現代的な問題も、同様に、市場と統治との関係から検討を行いたい。
③イギリスの古典派経済学者ヒュームは、国家による債務の累積が国家破産をもたらすという強い懸念を抱き、統治を情念の持つ本源的なダイナミズムに規律を与えるものと考えた(ポーコック)。狭い意味の経済学にとどまらない、社会思想の観点から、経済主体と統治の問題を考察することが必要である。19世紀初頭の地金論争なども、貨幣理論の深化という経済理論史としてのみ捉えるのではなく,金融利益によって統治が左右されてしまうのではないかという当時広範に抱かれた懸念からこうした視角から再検討する必要がある。したがって,登場人物も,論争を扱った,経済学者だけにとどまらず,当時の政治家,政治思想家,文芸家や詩人にまで広がることになるであろう。

プロジェクト・メンバー(9名):

立川潔(リーダー)
明石茂生
浅井良夫
大森弘喜
花井清人
林幸司
平野創
村田裕志
角田俊男(客員所員)

成果

角田俊男 (2013)「越えがたい懸隔と永久の分離-バークと東インド会社の帝国統治1778-95年-」成城大学経済研究所研究報告№62。
立川潔 (2013)「エドマンド・バークにおける市場と統治ー 自然権思想批判としての『穀物不足に関する思索と詳論』—」成城大学経済研究所研究報告№67。
村田裕志(2015)「解釈学的 - 社会システム論としてのルーマン理論」成城大学社会イノベーション研究第10巻第1号pp.185-240。

研究テーマ:都市:福祉と経済(2009〜2011年度)

経済研究所第1部門(歴史・思想を中心とする研究部門)では、昨年度までのプロジェクト「都市と経済・社会変動-その歴史的・理論的研究-」を継承し、さらに新たに福祉の諸領域を考察の対象に取り入れて、2009年度から3年間、標記テーマを追求する。したがってメンバーも前プロジェクトを踏襲する。
 19世紀後半にいわゆる社会革命の名の下に西欧列強では、社会・労働立法が誕生し、世紀前半からの山積する「社会問題」を解決しようとする傾向が現れた。それはひとえに市場経済の進行が創りだした階級的対立と都市問題に、いちおうの処方箋を与えるものだった。福祉の諸問題もこの過程で国民的論議の対象となり、旧来の球貧行政に大きな転換が生じ、また福祉の領域が一挙に拡大した。それは二つの世界大戦を経て、20世紀後半の福祉国家の誕生へと繋がる。
 角度を変えて眺めれば、近代の歴史は都市化の歴史でもあり、先進工業国のみならず後発諸国でも、都市化の進展は著しい。先進諸国では今や国民の大半は都市住民であり、その生活様式、意識のありようなどを含む「都市的なるもの」は、広く共有されるに至っている。その基盤となる社会インフラ(上下水道・道路・ 学校・医療保健)の整備も、都市と農村では質的な差がなくなっている。
 ところが福祉国家の基盤が揺らぎ始めた1990年代以降、都市における福祉サーヴィスはさまざまな危機に逢着している。我が国を含む先進国では、国民の少子高齢化がすすみ、とりわけ高齢者の保健・医療・介護が財政を圧迫し始めている。また、医療・介護の現場で働く労働者が不足し、外国人労働者を導入して手当てするなど、労働市場にも変化が⽣じている。これはしかし我が国固有の問題ではなく、先進諸国に共通する課題でもある。
 最近、銚子市など市立病院や県立病院が経営危機に陥り、縮小・閉鎖される例が多い。また戦後、都市郊外に大量に建設された公団・公社の住宅団地が老朽化し、住民の高齢化と流出がすすみ、建て替えも困難になるなど都市における住宅宅問題も新たな局面に入った。すなわち、我が国の都市福祉は、社会の高齢化と若年労働者不足、公的財政難などで危機に曝されており、その枠組みの再考が急がれて いる。
 本プロジェクトはこうした現代都市社会が抱える諸問題を、主に歴史と経済の観点から分析するが、同時に広く社会・文化・宗教の観点からの考察も加えたい。そうすることで問題の違った側面を認識できるだけでなく、現実を相対化して眺めることもできるからである。
 本プロジェクトは、これまで通り年に4回の研究会、ミニシンポなどを開催し、互いの意見交換を通じて知見の拡大に努める。また時に学外から研究者を招聘し、研究報告をお願いする。とくに福祉の諸問題では広く学外からの協力を仰ぐことになるだろうと思われる。
 最終年度には、メンバーを中心に、それまでの研究成果を経済研究所『年報』や、グリーン・ペーパーなどに掲載する予定である。

プロジェクト・メンバー(9名):

浅井良夫(リーダー)
大森弘喜
立川潔
花井清人
林田伸一
平井康大
牧野圭子
村田裕志
角田俊男(客員所員)

成果

角田俊男(2010)「都市共和国の伝統を継受する専制帝国-啓蒙の歴史叙述とピョートルの改革-」成城大学経済研究所研究報告№55。
大岡聡 (2009)「昭和戦前・戦時期の百貨店と消費社会」研究報告№52。