経済研究所

研究活動

経済研究所では、所員を中心に、「歴史」と「現状分析」という2つの視点から共同研究(プロジェクト)を進めています。2014年度より、3つ目の研究プロジェクトを新たに設置いたしました。
プロジェクトでは、所員による研究会や学外の専門家を招いてのミニ・シンポジウムを開催し、その成果を『経済研究所研究報告』として随時公表しています。

第1部プロジェクト

研究テーマ:グローバルヒストリー再考:文明からみる世界経済史 (2018‒2020年度)

【研究の目的】
 1980年代以降、冷戦構造の解体や、多国籍企業活動の展開、金融自由化、インターネットの普及など、国境の枠組みを超えた様々な活動により、それまでの一国史的な世界の捉え方は再考をせまられることとなった。こうした背景の下、社会経済的事象をグローバルな視点から捉えようとする、グローバルヒストリーが、新たな方法として提起されてきた。
 グローバルヒストリーには、多くの解釈や方法が存在するが、世界の多様性を認めるとともに、アクターの間での境界を重視せず、むしろこれらをとり結ぶ関係に注目し、これらを貫く普遍的歴史観を追求しようとするという点が、特徴と言える。しかしながら、近年グローバルヒストリーの内部から「行きすぎた」グローバルヒストリー(=境界を取り払った歴史)を批判する動きが見られる。すなわち、ナショナル、リージョナル、ローカルな視点が、グローバルな関係を分析する中で重要であるとするものである。一例を挙げるならば、スベン・ベッカートによる綿(モノ)に着目した資本主義分析では、資本主義のもとでの労働形態は賃労働だけではなく、奴隷労働などの強制労働など「暴力的」な要素が含まれる。その「暴力」に国や地域が大きく関与しているだけでなく、そこには権力関係、利害関係があり、それなしでは綿のグローバルな動きは説明できないとする。異なる地域の事象や歴史展開のあいだの関係を見ようとするグローバルヒストリーは、逆説的ではあるが、産品や経済制度、思想、文化など、各地域の「文明」の固有性に関心を寄せることで、はじめて展開することが可能となる。そして、それぞれが独自に展開をみせている地域の寄せ集めにみえる世界経済も、ひとつのまとまりとして包括的な理解が可能となる。このような視点は、グローバル化によって進展する共通化・普遍化の中で、分断されながら再構成されていく文明の諸相を明らかにすることにもつながるであろう。
 このような現状を踏まえて、本プロジェクトでは、グローバルヒストリーを文明と世界経済史の視点から再考するため、金融と通貨、経済思想と制度、産業と開発のアプローチから、各プロジェクト参加者の専門に即しながら研究を進める。

【研究の進め方】
 上記のように、本プロジェクトでは、グローバルヒストリーの持つ多様かつ普遍的な歴史観を受容しつつ、各地域の「文明」の固有性に注目しながら個別具体的な分析をすすめ、グローバルヒストリーの批判的継承をはかることを目的とする。このため本プロジェクトでは、以下の三つの具体的なアプローチを設定し、研究を進めていく。
 第一に、金融と通貨からの考察である。古来より文明を構成する際に不可欠な要素でありつづける通貨は、国境の枠組みを容易に超えるものであるとともに、国家による規制と統制を受けるものでもある。ここでは、古代から現代へといたる金融と通貨という視点を設定し、グローバル化と文明の固有性がいかに切り結んでいったかについて検討する。
 第二に、経済思想と制度からの分析である。思想史および制度史の分野でも、方法論的な一国主義—国民的な観念から定義された国家と国家に拘束された国民の歴史—を超えて、国際論的転回を遂げようとする潮流が大きくなってきた。国境や大洋を越えた国際思想の伝播と受容の歴史を扱ったアーミテイジの『思想のグローバルヒストリー』はその典型であろう。このような研究に学びながら、一国主義に偏りがちであった思想・制度史の再検討を試みる。
 第三に、産業と開発の視点からの考察である。異なる文明の固有性をグローバルヒストリーの視野から位置づける際には、経済活動の成果としての産品をめぐる関係に注目するとともに、これらの関係が各国の経済開発にどのような影響を与えたかについても、俯瞰的に捉えることが重要である。ここでは、産業と開発という視点を設定し、産品の生産・消費およびこれらをめぐる権力関係のみならず、その国際的展開と経済政策への影響にまで関心を広げて、分析をすすめていく。
 第1プロジェクトは、2015~2017年度にかけて「成熟経済の歴史的位相」をテーマに、ほぼ全てのメンバーが自らの研究をミニ・シンポで報告し、プロジェクト・メンバーだけではなく、プロジェクトに属していない多くの先生方や学外者の方の参加をいただいて、活発な議論を展開し、研究を多方面から深めることができた。本プロジェクトにおいても、メンバーによる報告や研究成果公表の機会をできるだけ多く確保するとともに、学外からの研究者もミニ・シンポにお呼びして、研究交流を深めていく予定である。

プロジェクト・メンバー(7名)

林幸司(リーダー)
明石茂生
竹田泉
立川潔
花井清人
村田裕志
角田俊男(客員所員)

成果

新倉貴仁(2018.4)「「能率」の共同体-第一次大戦後から高度成長期までのミドルクラスとナショナリズム-」成城大学経済研究所年報第31号pp.5-30。

第2部プロジェクト

研究テーマ:経済のデジタル化が進展するもとでの金融制度および税制の望ましいあり方(2020‒2022)

【研究の目的】
 情報通信技術(ICT)の革新であらゆる情報がインターネットを介して流通するようになり、さらに人工知能(AI)の発展によってこうした情報の利活用が可能になった。この過程で、財・サービス市場では「シェアリングエコノミー」、労働市場では「ギグエコノミー」といった新しい取引形態が登場するなど、いわゆる「経済のデジタル化」が進行している。「デジタル経済」が機能するためには、実物市場と表裏一体の関係にある金融市場もICTやAIの利活用で高質化されていくことが不可欠である。また税制も、生じうる資源配分の歪みに対処していく必要が生じよう。経済のデジタル化で先行する米国・中国では、決済・融資面でのデジタル・イノベーションが既に進行し、米国では巨大プラットフォーム企業へのデジタル課税の議論も活発である。これに対し、日本では既存のしくみからの転換が遅れており、今後も日本が国際競争力を維持していくためには、経済のデジタル化に対応して金融制度・税制の再構築を図ることが喫緊の課題だと言える。
 以上の問題意識のもと、本研究では以下の2点を明らかにする。第1に、経済学に加えて神経科学の知見も導入し、AIの発展が中長期的に個人や企業の意思決定や行動にもたらしうる変革を明確化する。第2に、我が国金融制度・税制の課題を整理したうえで、標準的な経済学の理論・実証分析の成果をもとに、経済のデジタル化への望ましい対応のあり方に関する有意義な政策提言を行う。具体的には、(1)決済システムの高度化、(2)デジタル化時代に即した金融教育、(3)リテール金融の技術革新、(4)雇用形態に中立的な税制、(5)企業へのデジタル課税などを分析対象とする。
 第2プロジェクトでは、2010年度より一貫して中小企業金融を主たる分析対象として研究を行ってきた。本研究課題でもリテール金融が分析対象に含まれており、その意味でこれまでの研究プロジェクトとの連続性は維持される。

【研究の進め方】
 本研究では、組織内に「AI発展の影響」・「制度インフラ再構築」の2つの研究小グループを設立する。研究計画の1年目にあたる2020年度は、このうち「AI発展の影響」小グループと「制度インフラ再構築」小グループの活動を中心に据え、研究メンバーが各々の担当分野で理論分析ないし実証分析を進める。各自は本学経済研究所が主催するミニシンポジウムで報告を行い、互いの分析についてコメントを交換するとともに、所属学会での論文報告を通じて外部からも広くコメントを集める。それらをもとに内容を改善し、査読誌へ投稿する準備を整える。
 研究期間の2年目にあたる2021年度は、まず研究メンバー間で各自の研究の進捗状況を確認する。各自は前年度の研究成果をまとめた論文を完成させ、必要に応じて匿名の査読者からの改定要求に対応し、年度末までの掲載を目指す。2021年度からは研究組織全体としての成果公表にも取り組み始める。その際、研究組織全体でワークショップを開催し、互いの小グループの研究内容の連携・接続の方向性について共通理解を深める。そのうえで研究成果の整理統合を進め、次年度から政策提言の立案ができる環境を整える。
 研究期間の3年目にあたる2022年度は、研究組織全体としての研究の総括にあてる。具体的には、「AI発展の影響」・「制度インフラ再構築」両小グループの研究成果をもとに、経済のデジタル化への対応に不可欠な高質な「制度的インフラストラクチャー」としての金融制度と税制のあり方に関する政策提言を完成させる。最終的には、各自の研究論文と政策提言を一冊の研究報告書に集約し、研究報告書として刊行することを目指す。

プロジェクト・メンバー(11名)

中田真佐男(リーダー)
明石茂生
内田真人
後藤康雄
中馬 宏之
花井清人
福光寛
福島章雄(客員所員)
峯岸信哉(客員所員)
柿原智弘(客員所員)
藤倉孝行(客員所員)

第3部プロジェクト

研究テーマ:「新しい資本主義経済社会」におけるグローバル企業の役割 (2020‒2021年度)

【研究の背景と目的】
 ここ30年を通じて急速に進展した情報通信技術(ICT)と、発展途上国の急速な経済成長とそれらの国々との積極的な交流は、グローバル規模で情報還流を促し、様々な側面で世界をフラット化させた。いうまでもなく、そこには光と影の面があった。
 例えば、80年代の終わりにITが開花する基礎が出来上がり、それが90年代に一気に花開いた。その後、ITは新しい産業としての勢いを発揮してバーチャルな価値を生み出し、そこに群がり、金融工学を巧みに扱うベンチャー・キャピタリストをはじめとする金融資本家が膨大な利益を享受することになった。しかしながら、その反面、その流れと逆行するリアルな価値を生み出す産業が食いつぶされるといった事態が生まれていたのも事実である。そこに、そうした金融資本主義に対して警鐘を鳴らすが如く、「リーマンショック」という世界的金融危機が米国や欧州をはじめとして先進諸国に多大な負の影響を与えた。もっとも、それと時を同じくして金融危機の影響が軽微であった発展途上国の経済状況が改善されつつあった。まさに、欧米先進国主導の金融資本主義経済体制に大きな変化が訪れようとしていたといえよう。
 そうした折に、ドイツを発端にして世界の産業社会で、「第4次産業革命(Industry 4.0)」という言葉が聞かれるようになった。効率性の高い製造拠点である「スマート工場」を実現することをスローガンとして掲げ、それはドイツ国内に留まることなく、スマート社会の形成に向けて、世界中の大企業の戦略行動に影響を及ぼしてきた。さらに近年では、インターネット高度化とともに進みつつある「物のインターネット化」すなわち「IoT」といった技術革新は、第一次産業革命とは比較にならないほどの規模で産業社会を大きく変容させ、グローバル化した経済社会に大きな影響を及ぼしている。さらに、AI(人工知能)やロボット工学の進化は、市場経済における仕事から何億人もの労働者を解放(排除)する見込みが現実味を帯びつつある。こうした技術革新の進化のスピードは、かつての産業社会が経験してきた幾度かの産業革命のそれを大きく上回り、変化を加速度化させているだけでなく、その規模も計り知れないほどである。
 つまり、今日の経済産業社会のこうした未曾有の変化は、従来の資本主義社会が常識とされてきたパラダイムを根幹から覆すものである。近年いわれる、「フリー経済」、「シェア経済」、「パブリック経済」などがそれに該当する。これらは、従来常識とされてきた、「規模の経済」や「範囲の経済」とはまったく次元の異なる経済価値であり、ネットワーク社会で生み出された新しい経済価値である。換言すれば、これこそが新しい資本主義経済社会においてメインストリームを成すものであり、それまでの資本主義経済社会の常識を覆す可能性をもっっているのではないかと考える。
 そこで、本研究プロジェクトでは、「新しい資本主義」と呼ばれる体制がいかなるものなのか、経済学および経営学といった異なるフィールドからアプローチし、それによって産業社会にはどのような変化生じているのか、その経済原理はいかなるものなのか、また、そうした社会の中ではどういったビジネスモデルが形成され、そういった経営が試みられているのかなどについて、できるだけ学際的な視点にたって現状を分析し、そこから理論を構築していくことを目的としている。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、現在の経済社会・産業社会の中で機能しているビジネスシステムが、どのような革新を遂げていくのか、また、それに伴って、日常生活や雇用などの社会環境がどのように変化するのか(しているのか)について、経済学、会計学、マーケティング、経営学、社会学などからの学際的視点から分析を進め、その理論化を図っていく。
 まず、本研究の前提として、本研究のキーワードである「新しい資本主義経済社会」の形成プロセスを明らかにする。
 第二に、「新しい資本主義産業社会」による経済的インパクトや企業行動等への影響についての検証を進めると同時に、合わせて「フリー経済」、「シェア経済」、「パブリック経済」との関連についての分析も進めていく。
 第三に、上記の研究の進捗に伴い、「新しい資本主義経済社会」のダイナミズムに関する理論構築を行うことが本研究の最終目標としている。 

プロジェクト・メンバー(9名)

岩﨑尚人(リーダー)
相原章
手塚公登
塘誠
伊東昌子(客員所員)
黄賀(客員所員)
小久保雄介(客員所員)
都留信行(客員所員)
中村圭(研究員)

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