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経済研究所

研究活動

経済研究所では、所員を中心に、「歴史」と「現状分析」という2つの視点から共同研究(プロジェクト)を進めています。2014年度より、3つ目の研究プロジェクトを新たに設置いたしました。
プロジェクトでは、所員による研究会や学外の専門家を招いてのミニ・シンポジウムを開催し、その成果を『経済研究所研究報告』として随時公表しています。

第1部プロジェクト

研究テーマ:「対立」と「結びつき」の政治経済史—グローバルヒストリー再考(2)(2021-2023年度)

【研究の目的】
 1980年代以降、冷戦構造の解体や、多国籍企業活動の展開、金融自由化、インターネットの普及など、国境の枠組みを超えた様々な活動により、それまでの一国史的な世界の捉え方は再考をせまられることとなった。こうした背景の下、社会経済的事象をグローバルな視点から捉えようとする、グローバルヒストリーが、新たな方法として提起されてきた。このような視野は、世界の多様性を認めつつ、一つに「収斂」されていこうとする世界のあり方を、根本から問い直そうとするものであったであろう。そしてそれは,国民国家を単位として「対立」し合ってきた世界が、どのように再構成されていくのかについて、新たな展望を示そうとするものであっただろう。
 他方、2019年より全世界に広がったコロナウイルス感染症は、国境の枠組みを越えた活動に大きな制限をもたらし、「グローバル化」が存立する前提そのものを揺るがしている。このような中で、世界は以前のような「対立」し合ってきた状態へと戻っていくのであろうか。それとも、「対立」を乗り越えた新たなグローバル化を展望しうるのであろうか。その中で浮上するのは、グローバルヒストリーを、「対立」と並行して展開する社会経済的事象の「結びつき」という視点から捉え直す方法である。
 第一部プロジェクトでは、これまで、「グローバルヒストリー再考」というテーマを設定し、グローバル化によって進展する共通化・普遍化の中で、分断されながら再構成されていく文明の諸相を明らかにすることに挑戦してきた。本プロジェクトでは、その続編として、世界の社会経済的事象を「対立」と「結びつき」の相互関係の視点から、金融と財政・社会経済思想とその受容・宗教活動・環境、という四つのアプローチにより、各プロジェクト参加者の専門に即しながら研究を進めていく。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、以下の四つの具体的なアプローチを設定し、研究を進めていく。
 第一に、金融と財政からの考察である。国家と商人は金融財政面で協力し、または対立して、財政貨幣や国際的決済手段の創造を通じて資金循環の構築に関与してきた。ここでは、17・18世紀オランダ・イギリスないしは江戸期から現代の日本に焦点をあてて、貨幣・決済システムを通じた国家と商人(市場)の関係と、政府間(国と地方、連邦と州など)での租税システムの模索について再考する。
 第二に、社会経済思想とその受容からの分析である。18世紀末のイギリスの支配構造は,自由・平等・博愛を掲げたフランス革命,さらにインドから巨富を持ち込んだネイボブの支配層への食い込みによって大きな衝撃を受けた。ここでは,まず植民地インドと隣国フランスからの影響に共通の禍害を見出すエドマンド・バークと、18世紀アイルランドのリネン業の発展をイギリスやアイルランドの支配層が推進した思想的背景の視点から、帝国の危機を考察する。また、20世紀末の「ポストモダン」思想が、フランスの哲学者など西欧の知識人がヨーロッパ近代社会の活力低下を「大きな物語の終焉」として表現する一方、21世紀の現在、中国の覇権の拡張による世界社会のはるかに「大きな物語」が展開していることを踏まえ、それにともなう、近代的価値観、政治思想、経済体制、インフラ整備、国際機関、文化創出におよぶ巨大な変動に即した社会経済思想についても考究していく。
 第三に、宗教活動からの分析である。古くから国家の枠組みを越えた社会経済活動を行ってきた宗教活動は、国民国家間を結びつける典型例として捉えることができる。ここでは、特にキリスト教・仏教の宣教ミッションの視点から、グローバル化と現地化の諸相について検討していく。
 第四に,環境からの分析である。資源や環境問題の調整は,問題の態様や,取り組み方に歴史的な発展がある。ここでは,特にグローバルな木材貿易が,諸地域の森林管理制度にもたらす変化や,そのための学知の普及や現地化について検討していく。
 第1プロジェクトは、2018~2020年度にかけて「グローバルヒストリー再考」をテーマに、ほぼ全てのメンバーが自らの研究をミニ・シンポで報告し、プロジェクトに属していない多くの方々のご参加もいただきながら活発な議論を展開し、研究を多方面から深めることができた。本プロジェクトにおいても、メンバーによる調査・報告・研究成果公表の機会をできるだけ多く確保するとともに、学外からの研究者もミニ・シンポにお呼びして、研究交流を深めていく予定である。

プロジェクト・メンバー(7名)

林 幸司(リーダー)
青木健
明石茂生
竹田泉
立川潔
花井清人
村田裕志

成果

青木 健(2022.3)「明治末~大正前期の林業教育と労働市場 ─ 開校初期の盛岡高等農林学校の学卒者の事例 ─」成城大学経済研究所研究報告No.94。

第2部プロジェクト

研究テーマ:ポストコロナの金融サービス・税制のあり方に関する研究(2023-2025年度)

【研究の目的】
 バブル崩壊後の日本は長期的な景気低迷に陥り、デフレーションが持続するなかで供給面でも少子高齢化・人口減少の進行によって潜在成長率の下落が顕在化するなど、経済の活力低下が大きな問題となっている。これに追い打ちをかけたのがいわゆる「コロナ禍」である。2019年12月に中国の武漢市で確認された「原因不明のウイルス性肺炎」が発生源とされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、グローバル化が進む人流・物流とも相まって急速に全世界へと感染が広がり、2020年度の世界各国の経済に深刻な悪影響を及ぼした。
もっとも、コロナ禍からの景気回復の強さは欧米主要国と日本では大きく異なっている。欧米では2021年度中には既にコロナ前の経済活動水準に戻ったのに対し、日本は欧米ほどの力強い景気回復を見せていない。たしかに、欧米諸国が経済活動との両立をより重視したコロナ対応を取ったのとは対照的に、日本は感染拡大の抑止をより優先させた。しかし、日本経済はもともと冒頭に述べた構造的な問題を抱えており、日本が今後に経済活動との両立を重視したコロナ対応へと転換を図ったとしても、容易に国際競争力を回復できるとは考えにくい。
 今後も重症化リスクが高い変異種が生まれる懸念は完全には消えないものの、ワクチンや治療薬の開発が進み、ポスト・コロナの経済・社会を展望できる状況になってきた今こそ、日本経済の活力回復に向けて克服すべき中長期的な課題を再確認し、理論・実証分析の成果に立脚した施策を提言することの重要性が高まっていると言えよう。その際には、コロナ前後に生じた大きな経済・社会の変容を無視することができない。具体的には、いわゆる「密」回避の観点から急速に進んだDX(Digital Transformation)の影響や、コロナ禍からの世界的な景気回復に伴う資源高や2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻によって加速したインフレーションの影響などを考慮することが不可欠となろう。
 以上の問題意識のもと、金融・財政を専門分野とするメンバーから構成される本プロジェクトでは、第1に、新型コロナウイルス感染症の収束後の日本における金融サービス・税制の望ましいあり方を明らかにする。また、本プロジェクトにはフランス・中米・東南アジアの金融市場の研究を専門とするメンバーも参加していることから、第2に、「コロナ禍」が欧州・新興国のリテール金融サービスにもたらした影響についても明らかにする。
 第2プロジェクトでは、2010年度より一貫して中小企業金融を主たる分析対象として研究を行ってきた。2020年度からは「経済のデジタル化」も新たな分析対象に加わっている。本研究テーマでもリテール金融・DXが分析対象に含まれており、その意味でこれまでの研究プロジェクトとの連続性は維持される。

【研究の進め方】
 本研究では、日本については「金融教育」・「リテール金融仲介サービス」・「リテール決済サービス」の3つのテーマを設けて分析を行う。海外については、新興国を対象として、主として「リテール金融仲介サービス」をテーマとして分析を行う。
 研究計画の1年目(2023年度)は、プロジェクトのメンバーが各々の担当分野で理論分析ないし実証分析を進める。各自は本学経済研究所が主催するミニシンポジウムで報告を行うなどして互いの分析についてコメントを交換するとともに、所属学会での論文報告を通じて外部からも広くコメントを集める。それらをもとに内容を改善し、論文を刊行する準備を整える。研究期間の2年目(2024年度)は、まず研究メンバー間で各自の研究の進捗状況を確認する。各自は前年度の研究成果をまとめた論文を完成させ、年度末までにジャーナルへの掲載を目指す。2年目からは研究組織全体としての成果公表にも取り組み始める。その際、プロジェクトでワークショップを開催するなどし、互いの研究内容の連携・接続の方向性について共通理解を深める。そのうえで研究成果の整理統合を進め、次年度から政策提言の立案ができる環境を整える。
 最終の3年目(2025年度)はプロジェクト全体としての研究の総括にあて、「ポスト・コロナ」あるいは「ウィズ・コロナ」の経済・社会における、DX化を核とした金融制度と税制の望ましいあり方に関する政策提言を完成させる。

プロジェクト・メンバー(9名)

中田真佐男(リーダー)
明石茂生
内田真人
後藤康雄
花井清人
福島章雄(客員所員)
峯岸信哉(客員所員)
柿原智弘(客員所員)
藤倉孝行(客員所員)

第3部プロジェクト

研究テーマ:パンデミック終息後の産業社会と企業経営に関する研究(2022-2023年度)

【研究の背景と目的】
 2020年3月、WHO(世界保健機構)は、中国武漢市から広がった感染症COVID-19がパンデミックとなったことを発表した。以来、世界の感染者数は増加し続け、間もなく1年半を過ぎようとしている。一時、感染者数および死者数が世界一であった米国や変異型ウイルスによって感染者数が再度急増した英国も、国民のワクチン接種が急速に進んだ結果、2021年2月以降徐々に落ちつきをみせている。また、それ以外のワクチン接種先進国でも、感染者数は落ち着きを見せるようになってきた。その一方で、13億人の人口を抱えるインドでガンマ型と言われる変異種によって感染者数が増えただけでなく、世界中に広がりパンデミック再燃する可能性があるとの懸念もある。もっとも、今次のパンデミックも、ワクチンの供給が地球規模で軌道にのりさえすれば、数年以内には山を乗り越えそうである。
 とはいえ、この間、世界中の国々の首都やそれに準ずる大都市や地域が次々とロックダウン(都市封鎖)を繰返し、4年に一度必ず開催されてきたオリンピック・パラリンピックの開催日程が延期されるなど、前代未聞の出来事が世界中で起こっている。そして、いま、終息後の「ニュー・ノーマル(新しい日常)」時代のスタートが喧伝されている。確かに、各国政府の対応や対策はさまざまであった。それによって生じた多くの変化が、ワクチン接種によってパンデミックが終息したからといって、ビフォー・コロナ状態にどの程度戻るのかは疑問である。
 特に、わが国の場合、「アフター・コロナ」、「ウィズ・コロナ」や「ニュー・ノーマル」といった言葉は、「これまでとは違った新しい日常が始まる」ことを強く想起させる。というのも、それへの歩みはパンデミック以前からすでにスタートしており、地球規模の自然災害やパンデミックは,「グローバリゼーションの進展」と「情報通信技術とネットワークの進化」によって変わりつつあった社会構造の変化の速度を速めるとともに、その現象を表出化させ可視化する契機に過ぎないと考えられるからである。
 換言すれば、これらの変化促進要因が、同時に襲来したのである。これらの3つの要因も、それぞれが単独でもたらす変化であれば、それに応じた処方箋を提供することはそれほど難しくなかったかもしれない。しかしながら,変化促進要因の束は、何かが変わると,そこに「関連している」、時として「関連していない」別の部分までも変えてしまうという事態である。変化をもたらすエネルギーが複数の束になって、予測不能な状況を創出するといった状況であるために、対症療法では対処できない。
 確かに、パンデミック襲来以前までは、「グローバリゼーションの進展」と「情報通信技術とネットワークの進化」はうまくシンクロナイズしながら、われわれに少なくない便益を与えてきた。情報通信技術とネットワークの進化は、時空間の制約を大幅に縮小して、さまざまなビジネスモデルを創造してビジネスチャンスを作り出した。また、その進化は、地球規模で経済的・社会的フラット化を実現し、グローバリゼーションを大きく進展させた。マイナスが全くなかったとはいわないが、生み出されたプラス効果が人類史を大幅に進歩させてきたといえる。グローバリゼーションと情報化の「共進化」による賜物である。
 ところが、もう一つの要因である「パンデミックの脅威」が共進化の束に干渉したため、三重の収束が創出する変化エネルギーが予想外の方向に社会を変化させ、それまでの日常や常識とは異なる「新しい日常」が必要とされるようになった。「自然災害やパンデミックの脅威」に晒され、「三密の回避」が強く求められた結果、それまでの常識が非常意識となることも多くあり、人と人との物理的・精神的な関係にも少なからぬ影響を与えた。外食産業やエンタメ産業を筆頭に非日用品産業、旅行関連産業など、目の敵にされた産業・企業は、時として休業要請を受け入れたり、あるいはビジネスモデルの転換するなどによって、生き残り策を模索した。また、勤労者の一部は在宅勤務やICTを活用したリモートワークを求められ、一部は危険を承知で公共交通機関などを使って通勤せざるを得なかった。そして、一部の勤労者は、職を失うことになった。そこで、働く場所や働き方を変えることが必要となったのである。さらに、学生や生徒も、従前とは異なる学びの場や方法にチャレンジすることが求められた。生徒だけでなく教師も使い慣れない機械の使い方を学んだ後に正規科目に取り組むことが求められた。学び舎に通うことなくインターネット授業をこなしてきた2020年の新入生の中には、未だ大学のキャンパスに足を踏み入れたことのない者さえいるともいわれている。
 このように、未だパンデミックの最中にあるとはいえ、ワクチンが近々これを終息させることは確実である。しかしながら、「自然災害やパンデミックの脅威」が共進化した束に干渉し、三重の収束が創出する変化エネルギーによって予想外の方向に社会を変化させ他結果、「新しい日常」が求められるのである。もはや、社会生活や経済活動、企業活動がパンデミック以前と同じ状態に戻らないことは確実である。
そこで、本研究の目的は、パンデミックを契機に大きな変化を遂げた社会構造の中での企業行動について検討することである。つまり、1)パンデミックを契機にして、企業を取り巻く経営環境は、どういった変化を遂げているのか、そうした変化の中で、2)企業の事業展開やビジネスモデル(事業構造)は、どのように革新されるのか、また、3)そうした戦略的事業展開・ビジネスモデルが変化する中で、企業のマネジメントモデル(組織管理体制)は、どのように革新されるのか、さらに、4)ビジネスモデルやマネジメントモデルが変容する中で、ガバナンスモデル(企業統治構造)が構築されるのかあるいはすべきかについて、戦略経営的視点、組織管理的視点、人的資源論的視点、会計学的視点、情報管理的視点などから、多面的視点から検討することが、本研究の目的である。

【研究の進め方】
 本プロジェクトでは、以下の研究アプローチに沿って研究に取り組み、パンデミック終息後の企業社会について、経済学、経営学、会計学、イノベーション学など異なる視点から分析を加え、その理論化を図っていくことにする。
 まず、本研究の前提として、本研究のキーワードである「パンデミック終息後の産業・企業社会」に関連して、産業・企業社会のどういった部分が、どのように変化したのかについて検討を加える。
 第二には、その中で、どういったビジネスモデルが生まれているのかについて、経営戦略論やイノベーション論の視点から明らかにする。第三には、そうしたビジネスモデルは、どういったマネジメントモデルによって機能するのかについて、組織論、人的資源論、経営情報論,会計学の視点から理論的に検討する。さらに、そのガバナンスモデルについても明らかにし、パンデミック終息後の産業社会における企業経営の実相を明らかにする。

プロジェクト・メンバー(9名)

岩﨑尚人(リーダー)
相原章
久保田達也
塘誠
伊東昌子(客員所員)
黄賀(客員所員)
小久保雄介(客員所員)
都留信行(客員所員)
中村圭(客員所員)