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マイナーで、マニアックな保険会計に潜む重大な会計問題
羽根 佳祐 准教授
経済学部 経営学科
専門分野:規範的会計研究
羽根 佳祐 准教授
経済学部 経営学科
専門分野:規範的会計研究
ところで、保険会計基準策定プロジェクト発足当時の国際会計基準委員会は、金融商品会計のみならず、あまねく会計手続に対して公正価値モデルを導入することを目指していました。この方針は国際会計基準審議会にも引き継がれたのですが、結局、金融商品会計基準でさえ、全面的な公正価値モデルの導入には至っていません。その中で、公正価値モデルから配分モデルへの転換が遅れたのが保険会計のプロジェクトでした。
国際会計基準審議会が保険会計への公正価値モデルの導入に固執したのは、他のプロジェクトで公正価値モデルの導入が頓挫していく中で、保険会計を公正価値モデルで基準化できた暁には、他の会計手続でも改めて公正価値モデルの導入を俎上に載せることを画策していたためでもあります。保険業の周辺制度では、ソルベンシー規制(保険金支払が適切に行えるように、監督当局が保険会社に対して監督を行うための規制)の中で責任準備金の経済価値測定が適用されていたため、公正価値モデルを導入する土壌は保険会計が一番整っていたのでしょう。その後、国際会計基準審議会のメンバーは入れ替わり、基準策定の方針も変わったと思われますが、当時のような考え方を持つメンバーが基準設定主体の中で多数派となれば、同様の事態がいつ起こるかも分かりません。
保険会計をはじめ多くの基準策定プロジェクトで公正価値モデルの導入は頓挫しましたが、農業会計では公正価値モデルが導入されました。しかし実際、国際会計基準を強制適用した農業・畜産業を主要産業とする開発途上国においては、農作物・家畜の出荷前にその公正価値の変動が利益認識される問題、それらの公正価値の見積り問題などが生じているそうです(このような問題に対処するため、近年、農業会計の基準も修正が施されました)。農業会計も保険会計と同様、マイナーで、マニアックな会計テーマで、基準策定時それほど関心が高くなかったためか、基準設定主体側の意見がそのまま通過してしまったようです。
会計に限らずすべての学問・事柄にいえることですが、マイナーな問題だと高を括っていると、それがいつ大きな問題になるかもしれません。地味で興味を引かない問題でも着眼点を変えることで、研究し甲斐のある重要なテーマに代わることは多々あります。このことを頭の片隅にとどめつつ、多くの方が、会計学、また保険会計に興味を持ってくれることを願っています。