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マイナーで、マニアックな保険会計に潜む重大な会計問題
羽根 佳祐 准教授
経済学部 経営学科
専門分野:規範的会計研究
羽根 佳祐 准教授
経済学部 経営学科
専門分野:規範的会計研究
「お会計、お願いします」という表現に代表されるように、会計という言葉はお金に何か関係するものと一般的に思われています。確かに、会計はお金に関連する事柄ではあるのですが、このために、学生の中には「会計はお金を数えるだけできっとつまらないだろう」「そもそもお金を数えることが学問になるの?」という誤解をしている人も少なくないようです。会計は、英語でアカウンティング(Accounting)といい、accountは「説明する」という意味です。したがって、会計という用語の本質的な意味は、「説明すること」に求められます。
企業会計で言えば、会計が説明する対象は、企業活動の実態についてです。そのため、企業は日々の取引内容を貨幣額で測定し、記録し、一年間(場合によっては半年、四半期ごと)の活動成果を財務諸表(企業にとっての成績表のようなもの)と呼ばれる報告書にまとめた後、企業への資金提供者達に向けて発信します。したがって、会計学は、この会計情報の作成方法に加えて、その作成ルールを支える考え方・基礎概念を学び、研究するのであって、単にお金を数えるだけの学問ではありません。
このため、会計は企業活動を理解するうえでの「ビジネスの共通言語」と呼ばれ、その重要性を説明できます。そして、真の「共通言語」となるには、国ごとで異なる会計情報の作成ルールを国際的に統一すべきとの議論があります。実際、そのような統一化の試みは成功した例もあれば、失敗した例もあります。以下に取り上げる保険会計は、危うく失敗しかけた例となっています。
会計学関連の通常の授業カリキュラムの中で、保険会計を取り上げることはほとんどありません。保険会計は保険会社のための会計なので、業界特有の処理が多々求められ、財務諸表の表示様式も一般事業会社とは大きく異なります。このため、保険会計は、一般事業会社には適用されることのない特殊なテーマであり、他の重要な項目の学習を優先するため、どうしても授業カリキュラムに組み込みにくく、そもそも、入門レベルの会計学のテキストは言うまでもなく、中級・上級レベルのテキストでさえ、保険会計を取り上げることはまずありません。
授業では取り上げにくいものの、研究テーマとしてみた場合はどうでしょうか。日本で、保険会計を専攻する会計学者はごく少数です。海外でも同様に、保険会計を専攻する会計学者は少なく、保険会計をテーマとした論文が主要な会計ジャーナルで掲載されることも稀で、どちらかと言えば、保険・アクチュアリー系のジャーナルで取り上げられることが多いテーマです。
私は、このような、マイナーで、マニアックな保険会計を研究対象としていますが、なぜ、保険会計を研究対象として選んだかというと、その大きな理由としては、保険会計を巡る議論の中に、企業会計のあり方・根源的な意義を問い直す会計問題が横たわっていると思われたからです。英国ロンドンを拠点とする国際会計基準審議会は、会計基準の国際的な統一化を目指し、国際会計基準の開発・公表を行っていますが、この基準策定プロジェクトの中には、保険会計基準の策定が含まれていました。この国際会計基準審議会による保険会計基準の策定作業の中で、企業会計のあり方を巡って、基準設定団体と市場関係者との重大な意見対立が生じていたのです。ここで、私の保険会計に関する研究の一部をご紹介します。