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「リネン」と経済史

竹田 泉 教授
経済学部 経済学科
専門分野:西洋経済史

 そんなに遠くない昔、子供は大人に混じって働く労働者であった、ヨーロッパよりもアジアの商業活動の方が活発であった、といったようなことを話すと、学生は驚く。子供のうちは学校で勉強し大人になったら社会に出て働くようになる、ヨーロッパが経済的な先進地域である、といった今では当たり前と思ってしまっていることは、人類の長い歴史からいえばここ最近そうなっただけなのである・・・し、もっといえば、今も、世界には幼児労働の問題は存在するし、ヨーロッパの中でも経済的な地域格差は大きい。

 市場経済や資本主義は普遍のものではない。経済史はそれらが歴史的に特殊なものであるということを教えてくれる。喫緊の経済・社会問題を直接にそして迅速に扱うわけではないが、中長期的な視野でそうした問題に取り組む術を教えてくれる。わたしたちの「当たり前」や「常識」を一旦捨てる、という簡単そうだが結構難しいことをやる術である。

 と、いくら強調しても、歴史研究の目的が「今」を理解することにあるなんていうことはなかなかわかってもらえないし、もしわかってもらえたとしても、そんなまわりくどいやり方につきあってくれる人はそうそういない。けれども、わたしは一経済史家として、「すぐに役に立たない」学問の意義を根気よく学生たちに伝えていこうと思っている。綿布が数百年前のイギリスで「リネン」と呼ばれていた、なんてことを考えることが、わたしたちが今をより良く生きることにつながっているんだ、ということを。

執筆者プロフィール

竹田 泉 竹田 泉

竹田 泉 | Izumi Takeda

経済学部 経済学科 教授
経済学研究科 経済学専攻 教授
専門分野:西洋経済史

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