成城彩論
seijo salon

「リネン」と経済史

竹田 泉 教授
経済学部 経済学科
専門分野:西洋経済史

 夏の季節にアサは快適である。サラッとした着心地や通気性は、ほてった皮膚の熱さを和らげ、汗の湿気を逃がしてくれる。日本に住むわたしたちは、昔から季節に合わせて身につける衣服や生活で使う布をうまく使い分けてきた。

 今わたしたちが「アサ」というとき、亜麻を原料とするものを指すことが多い。同じものを指して「リネン」と呼ぶこともある。「リネン」には「アサ」とは違ってなにやらおしゃれな意味合いが付与されているようにも感じる。

 アサは幾つかの種類に分けることができる。亜麻だけでなく、苧麻(チョマ)や大麻もアサの種類である。苧麻はからむしともいうが、越後上布や宮古上布など高級な織物生産に用いられていることでよく知られている。年配の方はこちらのアサの方が馴染み深いかもしれない。大麻は繊維というよりも違法薬物のイメージが強いが、元来日本語のアサは大麻を指していた。

 リネンに戻ろう。この言葉がアサ製もしくはもっと厳密には亜麻製のものを指すことをわたしたちは知っている。しかしその一方で、原料が何であるかについてほとんど考えることなく「リネン」という言葉を使うときもある。ベッドに敷くシーツを「ベッド・リネン」、食卓で使う布を「テーブル・リネン」と呼ぶとき、亜麻という原料からできているかを考えることはほとんどない。その多くは実は綿製であり、それをわたしたちは「リネン」と呼んでいる。すなわち、辞書の定義とは異なる意味でわたしたちは「リネン」という言葉を使っているのである。「リネン」に限ったことではない。どんな言葉も辞書の定義から外れる意味をいろいろ持っている。時と場所が変われば意味も異なる。おもしろい!

 この興味がわたしの経済史研究の根本にある。経済史とは、現在の経済社会が歴史的にどのように形成されてきたかというところを考える学問なのであるが、その大きな問題を突き詰めていくと、わたしの場合「リネン」という言葉に行き着くというわけである。

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