経済研究所

研究活動

経済研究所では、所員を中心に、「歴史」と「現状分析」という2つの視点から共同研究(プロジェクト)を進めています。2014年度より、3つ目の研究プロジェクトを新たに設置いたしました。
プロジェクトでは、所員による研究会や学外の専門家を招いてのミニ・シンポジウムを開催し、その成果を『経済研究所研究報告』として随時公表しています。

第1部プロジェクト

研究テーマ:成熟経済の歴史的位相 (2015‒2017年度)

【研究の目的】
 「失われた20年」という言葉に象徴される閉塞感を背景にして,日本経済の構造的な行き詰まりが広く叫ばれるようになった。規格化された製品の大量生産で成長をめざすこれまでの日本経済のあり方は新興国との競争で立ちゆかなくなった,また高度成長期に形成されてきた終身雇用・男性正社員中心の就業構造は限界に達している,さらに時間あたりの労働生産性の低下の進行はもはや長時間労働で生産性を確保することを不可能にしている,このような認識の下に,大量生産・価格競争モデルから成熟を力とした価値創造モデルへの転換など,論者によってその力点の違いはあれ,これまでの経済から脱却した新しい経済モデルを必要としている段階として「成熟経済」という概念が広く用いられている。このような認識は,成長ヴィジョンとしてクール・ジャパンに象徴されるような成熟に裏打ちされた日本人の感性や技術力の発揮をベースとした「成熟を力とした」価値創造経済の創出や,イノベーション人材やグローバル人材という価値創造をリードする多様な人材を広く育成しワーカーからプレーヤーへの働き方の改革などの提言に見られるところであろう。もちろん,このような構造的な行き詰まりはたんに日本だけに特有なものはなく,いわゆるニュー・エコノミーに転換した先進国が共通に抱える問題であり,上記の提言はそれに対する対応の一つというべきであろう。
 このような現状をふまえて本プロジェクトでは成熟経済の歴史的位相をテーマとする。あらためて成熟経済という概念と実相は,いかなる時代の終焉を意味し,またどのような転換をもたらすのか,思想史・学史的比較,グローバリズム化とニュー・エコノミー化,あるいは福祉社会化いう歴史的視点,あるいは国際金融システムをも視野に入れて,立体的・歴史的に位置づけていく。そのため,本プロジェクトは次のような二つのアプローチに基づいて考察を進めていく。第一は,成熟経済の成立を歴史的,思想的な観点から考察していく。そこでは歴史的に成熟経済の形成ならびに思想的な出自が検討されるであろう。さらに第二に,いわゆる成熟経済の下での経済制度や政策のあり方の特徴について考察していく。この変化に制度や政策,さらに市場はどのように対応していこうとしているのか実証的に明らかにする。これら二つのアプローチから各プロジェクト参加者の専門に即しながら研究を進める。
【研究の進め方】
【研究の目的】で述べたように,二つの観点から研究を進めていく。具体的には,第一のアプローチの研究として,歴史的視点から成熟経済の成立とその限界を考察するとともに,「成熟経済の罠」といわれているものとその克服の方向を歴史的ダイナミズムから探っていく。さらに,戦後日本が資本輸出・援助供与国への転換していく淵源を求めることで成熟経済概念を再検討していく。また,社会的弱者を包摂していく運動にフランスの福祉社会の源流を求めることで,成熟経済の下で進んでいる社会的排除やゲーテッド・コミュニティという社会の分断化の意味を考える。さらに思想史の視点から,経済成長ではなく,むしろ停⽌状態に始めて積極的な意味を与えたジョン・スチュアート・ミルの経済学の今日的な意味を再検討するとともに,経済の成熟化と現代の大きな思想潮流の一つであるポストモダニズム思想との関連を探求する。
また,第二のアプローチの研究として,成熟経済の下での経済財政システムはどのようにあるべきか,これまでのシステムとの連続と断絶を明確にしながら展望する。また観光産業をとりあげ,マスツーリズムからオールタナティブツーリズムへの変化に成熟経済の特徴を探っていく。さらに,少子高齢化が急速に進⾏している中国についても,その新民主主義経済との関係をふまえて考察していく。
 第1プロジェクトは,2012~2014年度にかけて「市場と統治-経済システムの長期的変動に関する歴史分析-」をテーマに,ほぼ全てのメンバーが自らの研究をミニ・シンポで報告し,プロジェクト・メンバーだけではなく,プロジェクトに属していない多くの先生方や学外者の方の参加をいただいて活発な議論を展開し研究を多方面から深めることができた。本プロジェクトにおいても報告の機会をできるだけ多く確保するとともに,学外からの研究者もミニ・シンポにお呼びして研究を進めていく予定である。

プロジェクト・メンバー(7名)

花井清人(リーダー)
明石茂⽣
浅井良夫
立川潔
林幸司
村田裕志
角田俊男(客員所員)

成果

明石茂⽣ (2015.4)「古代メソポタミアにおける市場,国家,貨幣-商人的経済再考-」成城大学経済研究所年報第28号
加藤博 (2016.4)「イスラム経済の基本構造」成城大学経済研究所年報第29号
長岡慎介 (2016.4)「イスラーム金融は何に対峙しようとしているのか—伝統・近代・ポスト資本主義—」成城大学経済研究所年報第29号

第2部プロジェクト

研究テーマ:持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた金融システムの変貌(2017‒2019)

【研究の目的】
 第2部プロジェクトは、2010~2013年度に亘り、「環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援」をテーマとして、近年の世界規模での金融危機を踏まえ、それをもたらした金融グローバリゼーションの負の側面としてわが国を初めとして各国の中小企業に生じた各種困難を取り上げて、実地調査を踏まえた調査研究を実施してきた。
 また2014~2016年度には、この成果を踏まえ、その発展形として、「成長企業支援の金融システムと政府支援の比較研究-成熟経済・成長経済・開発途上経済の課題解決に向けて-」をテーマとして、成熟した経済、成長プロセスにある経済、エマージング経済にカテゴライズした。また企業の発展ステージとマクロ経済の発展ステージを対比して、その課題の整理を試みた。これらの成果はグリーンペーパーで公表されているほか、シンポジウム「アジアにおける中小企業金融の展望:望まれる金融システムの模索」で議論され、年報に掲載される。
 以上のように第2部プロジェクトは、これまで中小企業金融を中心に研究を進めてきた。2017~2019年度のプロジェクトでは、金融システム全体のあり方を、世界的な社会情勢と研究環境の変化の動向に鑑み、現代社会が直面する様々な課題、とりわけグローバル化の質的・量的な増大に伴う社会的・文化的な不平等、格差の拡大・固定を是正し果然する取組との関係で改めて、研究課題として選択した。テーマは「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた金融システムの変貌」とした。これは、さまざまな集団の社会包摂の問題や、環境問題など経済成長の持続可能性の問題など、現在の世界経済の諸課題との関係において、また歴史的な流れの中で金融システムの変貌をとらえ直そうというものである。

【研究の進め方】
 本プロジェクトは、本プロジェクトのこれまでの成果を踏襲・発展させて展開する予定である。2010年以降、研究第2部プロジェクトは、カントリースタディを意識し、メキシコ・ハリスコ州立グアダラハラ大学の日本研究と連携し、その学術交流を進めてきた。その結果として、2015年3月には、同大学と成城大学経済研究所との間で学術交流を積極的に進めて行くことを確認する覚書が結ばれている。またメキシコに限らず、海外への渡航を積極的に行い、現地調査や現地での資料収集に努め、知見を蓄積してきた。数多くの講演会やミニシンポジウムを中心としたさまざまな研究者との交流の輪を広げてもきた。
 このような過去の遺産、とくに制度研究での遺産を継承しつつ、2017~2019年度プロジェクト「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた金融システムの変貌」では、これまでのこのプロジェクトでは必ずしも積極的に扱われなかった、高齢化や国際化に伴う金融システムの課題、あるいはフィンテックなど金融イノベーションの進展に伴う決済の問題など、とくにマクロ的にみた金融システムの研究も積極的に行なう方針である。具体的には、1)海外・国内実地調査、2)国内各種研究機関における当該研究との連携、3)プロジェクト・メンバーによる個別研究を通じて実施する。

プロジェクト・メンバー(10名)

福光寛(リーダー)
明石茂生
内田真人
小平裕
中田真佐男
花井清人
福島章雄(客員所員)
峯岸信哉(客員所員)
柿原智弘(客員所員)
藤倉孝行(客員所員)

第3部プロジェクト

研究テーマ:成熟化する産業社会におけるビジネスシステムの構築に関する研究 (2016‒2017年度)

【研究の背景と目的】
本研究は、少子高齢化が急速に進み、国内市場が縮小することが確実な日本社会において、日本企業がいかにしてその存続と成長を確保することができるかに焦点を当て、それを実現するための新しいビジネスシステムの構築を理論的・実証的に検討して行くことを目的としている。
戦後70年の時を経て、名目GDPで490兆円、一人当たりGDPでもおよそ400万円までに成長を遂げてきた日本の経済社会も、大きな曲がり角に直面している。バブル経済崩壊後20年の長きに亘って経済不況が続いてきたとはいえ、多くの日本企業は厳しい経営環境の下で自ら経営革新を進め、少ないながらも収益を生み出して、それなりの成長を維持してきた。また、一部の産業に限られるもののベンチャー企業が新しいビジネスシステムの産業を生みだしてきたおかげで、幸運なことに失業率も5%を超えるまでには至らず、日本経済は、壊滅的な状況には陥ることはなかった。また、近年では、いわゆる「アベノミクス」によるマクロ環境の変化によって、投資動向に若干の変化の兆しは見え始め、日本経済の将来にも期待を持てるかに思われている。
とはいえ、日本の65歳以上の高齢化率は25.78%となり、世界一の高齢大国となってしまった。今後、その傾向は、ますます高まっていくことは確実である。しかも、高い高齢化率を経験した国はわが国が初めてであり、どこの国も経験したことない未知の世界に日本社会は踏み出すことになる。そうした社会では、労働人口が減少するだけでなく、国内市場が縮小することは当然である。グローバル化が進んでいるとはいえ、GDPに占めるサービス業の割合が71%を超えていることを考えても、国内消費に大きく依存し、成長を確保するといったビジネスシステムを構築してきた日本企業にとって、それをそのままの形で維持していくことは困難となる。まさに、日本社会、日本企業は踊り場にきているのである。
そうした社会の到来を目前に控えて、苦難を乗り越えて存続を確保してきた企業には、ビジネスシステムの革新が早急に求められている。しかし、ビジネスシステムの革新は、一朝一夕にできるものではないことはいうまでもない。事実、先の景気低迷から脱却するまでに20年もの歳月を費やしてきたが、そのビジネスシステムの革新が現状で正解であったといいきることはできない。まして、労働人口が減少し、縮小する国内市場の中では、モノ作りや売り方、サービスを変えていくだけでは、不十分であり、ビジネスシステムの全体構造を変革していくことが必要である。生産拠点や市場を国外に求めるといっても、グローバル社会が大きく構造変化する中にあって、これまでと同様のパラダイムをベースにして、ビジネスシステムを再構築しても、企業の存続と成長を確保することが困難であることは明らかである。高齢化が進んだ成熟化した産業社会には、これまでのビジネスシステムは通用しないのである。
そこで、本プロジェクトでは、経済学および経営学にまたがる研究領域から、これまでいかなる企業も経験したことのない未知の産業社会で、どういったビジネスシステムを構築していくべきかについて、1)現行のビジネスシステム(事業構造、組織管理体制、企業統治体制などを包括する企業の全体システム』が、今後、どういった変化に直面しようとしているのか、また、2)そうした社会の中で、どういったタイプのビジネスシステムが形成されるべきか、そして3)あたらしいビジネスシステムを目指して、どういった革新を実現していくべきかといった諸点を、理論的・実証的に検証し、それを理論化していくことを目的としている。

【研究の進め方】
本プロジェクトでは、以下の研究アプローチに沿って研究に取り組み、高齢化に伴って成熟化の進む未知の社会の中で、成長と存続を実現する企業のビジネスシステムの構築に関する理論構築を試みる予定である。
まず、本研究の前提として、今後の高度高齢化が、日本経済や産業社会、及びグローバル社会に対して、どういった影響を与えるのか与えるのかを客観的に整理し検討することである。そこで得られた基本的データに基づいて、専門的見地から新しいビジネスシステムの構築に関して検討していくことになる
第二は、成熟化した社会において、社会的な問題解決と収益確保の両立を目的とする、いわゆる「ソーシャルビジネス」の可能性を探索する研究である。従前企業が行ってきた社会貢献活動とは異なり、社会問題の解決をミッションとして活動することによって新しい社会的価値を生み出すソーシャルビジネスは、支援や援助といった対処療法的なものではなく、支援活動そのものをビジネス化させ収益を生み出す長期的・継続的なビジネスシステムである。そうしたビジネスシステムは、成熟化する産業社会において、新しい成長可能性を生み出すはずである。
第三は、高齢化が進み消費市場が縮小する中で、現在GDPの70%以上を占めるサービス産業のビジネスシステムの革新の研究である。これまでわが国の企業の多く、とりわけサービス業は、裕福で巨大な日本市場の内需に依存して収益をあげるビジネスシステムを構築してきたことは否定できない。近年になって、ソフト産業の海外事業展開が進みつつあるとはいえ、サービス産業全体では、グローバル市場の市場開拓はそれほど進んでいるとはいえないし、サービス産業のビジネスシステムのグローバル対応は未だ不十分であることは否めない。今後、国内市場以外でも通用するようなビジネスシステムに革新していくことは、重要である。
第四は、労働人口が減少する中での製造業のビジネスシステムの革新をどのように進めていくかに関する研究である。これまで日本の多くのメーカーは、高度な技術と効率的生産体制による低価格高品質を武器にして、グローバル市場において、厳しい国際競争において税調と存続を維持していきた。しかし、高齢化によって中小中堅企業の高度な技術の継承が困難になっているし、今後労働人口が減少すれば生産機能を放棄しなければならないことにもなりかねない。「ものづくり」をなくして、技術イノベーションを進めていくことが難しい状況の中で、技術立国を実現していくためには、現行のビジネスシステムの革新は急務であり、それなくして、日本メーカーの存続を確保することが困難である。

プロジェクト・メンバー(8名)

岩﨑尚人(リーダー)
相原章
小宮路雅博
庄司匤宏
手塚公登
都留信行(客員所員)
黄賀(研究員)
松尾茉子(研究員)

成果

中村圭(2017.3)「「中国企業」vs「流動人材」」—親族構造と「包」の概念から見る現代中国企業組織—」成城大学経済研究所研究報告No.78。

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