成城大学

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  • 2017.03.06

    【開催報告】成城大学グローカル研究センター国際研究集会「韓流とアジア太平洋地域のトランスナショナルな動き」

グローカルな視点を探る日韓合同研究集会を終えて

成城大学社会イノベーション学部教授 西原和久

 2017年2月17日(金)の午後2時から5時過ぎまで、成城大学3号館3階大会議室において、International Research Conference on The Korean Wave and The Transnational Movements in the Asia-Pacific Region: The Glocal Perspectives on the Contemporary Socio-Cultural Movementsという国際研究集会が、成城大学グローカル研究センター主催で開催された。この英文タイトルの邦訳は、「韓流とアジア太平洋地域のトランスナショナルな動き——現代社会文化運動に関するグローカルな展望」である。報告は4本。報告者は、第1報告が西原和久(成城大学)+芝真里(日本学術振興会特別研究員(PD)、成城大学)、第2報告がデニス・リチェズ(成城大学)、第3報告がWonho Jang とJung Eun Song(ともにUniversity of Seoul=ソウル市立大学)、そして第4報告がKee-Bom Nahm(University of Seoul)、Byungmin Lee(Konkuk University=建国大学)、Changwan Park(University of Seoul:ただしPark氏は今回は来日していない)の合計7名であった。  
 そもそもこの研究集会は、Jang教授などと親交のある成城大学グローカル研究センターの西原に、Jang教授側から開催が持ちかけられ、西原が研究の方向性が同一であることを確認して快諾したものである。Jang教授は、SSK(Social Science Korea)において Glocal Culture and Regional Development Research Divisionを統括して、主として東アジアにおけるグローカル文化と国境を越えたその展開を主題として研究を進めてきている。西原らもアジア太平洋地域のトランスナショナルな人びとの交流を現在の研究主題としている。そこで、成城大学側からは2つ報告が準備され、韓国側の2つのグローカル研究と合同で研究集会をもつことになったものである。なお、本研究集会の司会は、日(中)韓の研究に精通しているIk Ki Kim(Renmin University of China=中国人民大学)に担当していただいた。

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 さて、第1報告(西原他報告)は、“The Challenge of Okinawan Social Thoughts: Independence Movements after the Ryukyu Kingdom and ‘Uchinanchu’”(「沖縄社会思想の挑戦——琉球王国後の独立運動と沖縄の人びと」)で、沖縄の自立をめぐるトランスナショナルかつグローカルな運動が、理想論的視点から現実論的視点まで多様な形で展開されていること、この点が歴史的経緯を踏まえて論じられた。
 第2報告(リチェズ報告)では、“Challenging the Occupation of Hawai’i under International Law: An Overview of Contemporary Actions and Strategies of the Acting Government of the Kingdom of Hawai’i”(「国際法の下でのハワイ占領への挑戦——ハワイ王国政府の活動戦略と現在を問う」)であり、タイトルの通り、グローバルに各国と国際条約を結んでいたローカルなハワイ王国において、国際法的には現在も有効なものがあり、それをひとつのよりどころとして現在におけるハワイの独立を模索している運動の様子が論じられた(なお、リチェズ教授の関連英文論稿は上杉冨之編『社会接触のグローカル研究』に収録されている)。
 第3報告(Jang他報告)は、“Understanding Glocalization: With Cases of the Korean Wave”(「グローカル化を理解するということ——韓流の場合」)であり、K-popを事例として、グローバル化の進展とともに各国の文化もその影響を受けて、ハイブリッド(混成的)なグローカル文化が形成され、それがさらにトランスナショナルな(国境を越えた)普及と消費の対象となって、新たなグローカル文化が生成することが論じられた。要するに東アジアにおいて、グローバル化の影響の下、受容的な「第1次的なグローカル化」と、生成的な「第2次的グローカル化」が見られ、それらによって新たなより創造的な広域地域的な文化展開が現在進行中であることが示された。興味深い指摘である。
 そして最後の第4報告(Nahm他報告)は、“Sustainable Tourism Development Factors for the Five UNESCO Living Heritage Cities in East Asia”(「東アジアの5つのユネスコ世界文化遺産地域における持続可能なツーリズムの発展要因」)と題され、日本の白川郷、中国の麗江、韓国のHjaheo Maeulなどが取り上げられ、政策面、当該地区の人びとの生活、ツーリズムの内容といった観点から検討が加えられた。世界文化遺産を訪れる外国人観光客はまさに、グローバル/トランスナショナルに移動してローカルな地域を楽しむグローカルな存在であることがあらためて確認できた。

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 以上でみたように、本研究集会での報告はいずれも、明確にグローカルな視点に着目した研究であった。扱われた事例は4者4様であったが、こうした事例研究を踏まえて、さらにグローカル化の内実に迫ろうとする意欲的なものであり、いずれもグローカル研究の可能性を感じさせる興味深い報告であった。なお、この集会に先立ってなされたミーティングで、今後は成城大学グローカル研究センターと上記の韓国側のSSK研究グループの拠点となっているUniversity of Seoulの当該学部との間で研究交流協定を結んで、より一層研究を進めていくことが確認された。その意味で、今回はグローカル研究の日韓合同研究の出発点であった。互いに刺激し合いながら、今後の研究のさらなる進展を期したいと思うと述べて、この研究集会の報告の結びとしたい。