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個人情報保護制度の改革

村上 裕章 教授
法学部 法律学科
専門分野:公法学、行政法学

4. 今後の課題

 今回の改革によって多くの問題が解決されたが、残された課題として、ここでは三点を指摘しておきたい。

 第一は、地方分権への配慮である。今回の改革によって、地方公共団体についても新法が一律適用されることになった。個人情報保護については、全国的に最低限のルールが必要とも考えられることから、統一化にはやむをえない面もある。しかし、地方による創意工夫を妨げ、法制度の発展を阻害するおそれも否定できない(8)。新法は一定範囲で条例による特別の定めを許容している。しかし、今回の改革がデータの利活用を大きな目的としていることから、地方公共団体独自の対応には限界があるとも考えられる(9)。この点は今後の動きを見守る必要がある。

 第二は、個人情報保護委員会の体制整備である。これまでは民間部門のみを監督対象としていたのに対し、今後は公的部門も監視の対象となる。諸外国の同様の機関に比べると、現在の個人情報保護委員会は、人員、予算等の面で、必ずしも十分ではないとの指摘がある。新たな任務にふさわしい体制を整備する必要がある(10)

 第三は、社会情勢の変化に対する迅速な対応である。これまで、個人情報保護制度は、国と地方の相互作用の中で発展してきた。上記のように、今後は地方公共団体の対応が制約される可能性があることから、制度が固定化するおそれがある。これまでの経緯を見るかぎり、国の対応が遅れがちだったことを忘れてはならない。この点で、個人情報保護委員会の役割と責任はきわめて大きいといえよう。

(1)宇賀克也「個人情報保護法制の一元化」『行政法研究』39号(2021年)3頁、「特集・2021年個人情報保護法改正」『ジュリスト』1561号(2021年)14頁など参照。
(2)宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説〔第6版〕』(有斐閣、2018年)1頁以下など参照。
(3)村上裕章「個人情報保護制度の現代的課題」『學士會会報』933号(2018年)19頁など参照。
(4)板垣勝彦「地方公共団体における個人情報保護の仕組みのあり方と国の関係」『ジュリスト』1561号(2021年)52頁など参照。
(5)村上裕章『行政情報の法理論』(有斐閣、2018年)271頁以下など参照。
(6)堀部政男「日EU間の個人データの円滑な移転実現への道程と今後の課題(上)(下)」『NBL』1148号(2019年)9頁、1149号(2019年)20頁、巽智彦「公法学から見た日EU間相互十分性認定」『成蹊法学』92号(2020年)275頁など参照。
(7) 改革前の概要については、村上・前掲注(5)172頁以下など参照。
(8) 宇賀・前掲注(1)38頁。
(9) 宇賀・前掲注(1)31頁。
(10)石井夏生利「個人情報保護委員会による公的部門の監督」『ジュリスト』1561号(2021年)46頁など参照。

執筆者プロフィール

村上 裕章 村上 裕章

村上 裕章 | Hiroaki Murakami

法学部 法律学科 教授
法学研究科 法律学専攻 教授
専門分野:公法学、行政法学

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