成城大学

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イノベーション戦略を考える

久保田 達也 准教授
社会イノベーション学部 政策イノベーション学科
専門分野:イノベーション・マネジメント、新製品開発論、経営戦略論

3. 停滞する日本企業

 それでは、日本企業はイノベーションを上手く進めていると言えるだろうか。イノベーションの成果の測定は難しいが、多くの調査からは否定的な結果が示されている。知識の産出や創造的なアウトプットなどから各国のイノベーション能力を測定した「グローバルイノベーションインデックス」では、日本は16位(2020年度版)である。個別企業のイノベーション能力を測定した「日経・一橋大イノベーション指数」(2019年版)でも、トップ200社に米国企業が72社、中国企業が32社占めるのに対し、日本企業はわずか7社しか存在しない。1980年代に"Japan as No.1"と評され、世界をリードしてきた日本企業は、その後、存在感を落としている。その原因はさまざまだが、一つの要因は、外部環境の大きな変化と対応の遅れである。

 外部環境の変化のひとつが、製品間の境界の消滅である。これまで別々の製品が担ってきた複数の機能を一つの製品で実現することが容易になったのだ。半導体チップに複雑な機能を搭載できるようになったこと、通信の高速化で必要な機能を必ずしも製品内に含めなくてもよくなったことがこの背景にある(青島,2017)。20年前までは、電話、カーナビ、ラジオ、地図、カメラなどは、それぞれ境界がはっきりとした、独立の機能をもった製品だったが、今ではスマートフォン一つでこれらの機能を実現できる。自動運転車も、自動車、センサー、情報端末が担ってきた機能を融合させたようなものである。これまで別々だった製品が融合し、一つの製品となっている。

 こうなると、一つの企業で全ての機能を作り出すことは困難となり、他社との協働が不可欠となる。そこで重要となるのは、多種多様な企業や人を結びつけ、協調関係を上手くマネジメントする仕組みだ。“GAFA”(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)をはじめとするプラットフォーム企業は、アプリストアやマーケットプレイスなどを通して、さまざまな企業や人を結びつけることに成功した。彼らは、自分たちの製品やサービスをサポートする企業に対して協力するインセンティブを与えると同時に、自分たちが十分な利益を得るビジネスモデルの設計にも長けている。

 このやり方は、研究開発から生産、販売まであらゆる側面をコントロールして付加価値を高めるという、多くの日本企業がこれまでとってきた方法とは大きく異なる。最近では、自動運転車の開発などで大手企業が業界の枠を超えて提携するといったことが見られるが、スタートアップとの協業や協業関係を含めたビジネスモデルの設計という点ではまだ弱い部分が多い。従来とは異なる能力、シナリオが競争優位獲得のために必要となってきている。