成城大学

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  • 2023.08.23

    キャリアの多様性と社会正義を志向するキャリア教育の実践

 成城大学では「キャリアの多様性と社会正義」をテーマにキャリアデザイン科目を開講しています。対象となる「キャリア・プランニング・プログラムⅠ」(全学部・3,4年生対象 前期開講)は、社会の諸問題に向きあいながら、社会正義の視点からライフ・キャリアの理解を深めることを目的に、2017年度より継続的に開講しています。
 2023年度は、社会問題として次の3つのテーマ、1.出産・不妊と特別養子縁組、2. LGBTQとHIV/エイズ、3.ホームレスと生活困窮/社会的孤立について、それぞれ専門家・実践家による講義の後、フィールドスタディを実施しましたⅰ)。7名の履修学生は、一連の活動を通して、社会問題にたいして当事者意識を持ち、自己を認識する機会を得ました。
 本科目はキャリアデザイン科目群の集大成科目として設置され、履修生は他のキャリア科目を履修しキャリア形成の基盤を整え、アドバンス的な学びに臨んでいます。本科目は全15回で構成され、[事前学習→ゲスト講義→講義のふり返りとフィールドスタディの事前学習→フィールドスタディ→全体のふり返り]を、前述の3テーマごと繰り返し、学生相互の意見から学びを深めていきます。同じ活動をしながらも異なる気づきを共有することで、各々の意識の形成と行動につなげていきます。本科目は、在学生・卒業生や教職員が一緒に参加することもあり、クラスでもDE&Iⅱ)を実践しています。
 昨今、SDGs・ESD、グリーンガイダンス・シティズンシップ教育、ESG・サステナビリティ人材の育成が話題になりⅲ)、個人の貢献が社会にどのようにインパクトを与えるかを考えながらキャリアを構成する時代となりました。
 キャリア教育にDE&Iを実装しながら、今秋には、正課外プログラムの開講に加え、成城学園教育研究所との共催で公開シンポジウムの開催を予定しています。

学生のコメント

 第1に「不妊・乳児院」のトピックでは、高校生~大学生の間にこそ知っておくべき知識だと感じた。女性である自分自身が知らなかったことは、当事者意識の薄い男性が知っているとは考えにくい。関連して出てくる育児放棄や虐待、予期せぬ妊娠といった話題も、教育の場で触れることに意味がある。このような事例に対し、産んだ母親が100%悪いと言いきってしまうのは、状況を良い方向に向かわせるとは思えない。その状況をつくってしまう社会の体制と、当事者の息苦しさに目を向けることを忘れてはいけない。
 第2に「性自認」のトピックでは、世界的に見ると、セクシュアリティの多様性に対し寛容ではない日本だからこそ取りあげるべき話題である。話題として取りあげ、関心をもつ人を増やすことがまずは必要になってくる。現在起きている問題に真摯に向き合う姿勢を持ち続けていきたい。
 最後第3の「ホームレス」のトピックでは、最も固定観念の強いトピックだと考える。また、この問題に対して自ら関心を持ち学ぼうとする学生は、前述した2つのトピックと比較し少ないのではないか。私自身、この授業を履修しなければ興味を持つことも、山谷地域に足を運ぶこともなかった。ビッグイシューの取り組みも、新宿駅付近をあれだけ毎日歩いていても知らなかった。ホームレス、と一括りに考えるのではなく、個人個人の歩んできた人生と向き合うことの大切さを学んだ。
 全体を通して、少人数の希望者が履修する科目だからこそ、公にはタブー視されがちな問題について深く考えることができた。この状況を有効に活用し、今後も多様なトピックに触れたい。フィールドワークを行う前に講師をお招きして話を聞いたり、事前学習で学生がそれぞれ調べたこと感じたことを共有する時間を取ることで、実際にその場に行った際の学びがより深いものになった。描いていたイメージとのギャップが自分自身の記憶に鮮明に刻まれる。学生同士で積極的にコミュニケーションをとることができたので、トピックからだけでなく、人を通じて視野を広げることができた。学んだ上で、今後私たちはどうするべきなのか、というのは課題である。自分の視野は拡がったけれど、それを無闇に広めて良い話題では無い。キャリア科目というものを「自己実現を目指し、将来設計を探るための助けとなるもの」、「職業観・勤労観・進路選択に必要な能力や心構えを養い育成するもの」だと定義するならば、闇雲に情報発信をすれば良いというわけではなく、人生の中で自分が必要だと感じた時や、周りに悩んでいる人がいたときに、ここでの知識や感覚、そして経験が生きてくるのだと思う。

ホームレスと生活困窮/社会的孤立のセッションで実施した「道端留学」(ビッグイシュー販売体験)

BIG ISSUE ONLINE https://bigissue-online.jp/archives/1082074271.html
 


注ⅰ)授業の情報;
 1.ゲスト講義:出産をめぐる社会問題:池田麻里奈氏 コウノトリこころの相談室 http://kounotori.me/
  フィールドスタディ:二葉乳児院 https://www.futaba-yuka.or.jp/int_nyu/ 
 2. ゲスト講義:セクシュアリティをめぐる社会問題:砂川秀樹氏 GRADI https://www.gradi.jp/ 
  フィールドスタディ: akta新宿 http://akta.jp/community-center/ 
 3. ゲスト講義:ホームレスと社会的孤立をめぐる社会問題;佐野未来氏:ビッグイシュー日本 https://www.bigissue.jp/
  フィールドスタディ:道端留学 https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/training/ 
  フィールドスタディ:山友会 https://www.sanyukai.or.jp/ 
注ⅱ)
・DE&I(Diversity, Equity & Inclusiveness)多様性・公正性・包摂性
注ⅲ)
・SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発目標
・ESD(Education for Sustainable Development):持続可能な開発のための教育
・グリーンガイダンス:下村英雄・高野慎太郎(2022)「グリーンガイダンス -環境の時代における社会正義のキャリア教育論-」『キャリア教育研究』日本キャリア教育学会40,2 pp.45-55
・ESG(Environment Social Governance):環境・社会・企業統治を考慮した投資活動や経営・事業活動
参考正課科目「キャリア・プランニング・プログラムⅠ-キャリアの多様性と社会正義-」シラバス
参考成城大学道端留学実施レポート(2023年度) 
参考成城大学道端留学実施レポート(2016年度) 
参考:灘中学校・高等学校の生徒と「ホームレス・生活困窮と社会問題」をテーマにオンライン意見交換会を実施 (2022年度)(2021年度)

※このたびの「道端留学」は成城学園教育研究所の2023年度教育研究助成を受けて実施しました。

文責 勝又あずさ(成城大学 キャリアセンター)