成城大学

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  • 2023.01.11

    「道端留学」(ビッグイシュー販売体験)を新宿で実施

 2022年12月10日(土)、正課外プログラム「キャリアの多様性と社会正義」の学外実習として、学生が雑誌『ビッグイシュー』を路上で販売する「道端留学」を実施しました。

 『ビッグイシュー』は、ホームレス状態でもすぐにできる仕事をつくり、貧困問題の解決に挑戦する雑誌として1991年にロンドンで生まれ、日本では2003年に創刊しました。「道端留学」は、実際に路上で『ビッグイシュー』を販売するといった教育研修プログラムです。学生はビッグイシュースタッフから説明を受けた後、販売者からアドバイスをもらい、新宿南口バスタ新宿前にて各自が路上に立ち、販売活動を行いました。「道端留学」にあたっては事前講義として「ホームレス・労働と社会問題」(講師:ビッグイシュー日本東京事務所長 佐野未来氏)、と「生活困窮者の社会的孤立と社会問題」(講師:特定非営利活動法人山友会副代表 油井和徳氏)を実施しました。
 学生は、道端留学を通して、不確実な社会で生きること、働くこと、助け合うこと、社会を生き抜くことについて考え、体験のプロセスを通して多様性を受容する、他者を尊重する、貢献する、といったライフ・キャリアに大切なことを学びあいました。

  • 販売体験の様子
    販売体験の様子

  • 販売体験の様子
    販売体験の様子

  • ビッグイシューの取組みについて説明
    ビッグイシューの取組みについて説明

  • 外国人観光客の対応
    外国人観光客の対応

  • 販売体験終了後のふり返りの様子
    販売体験終了後のふり返りの様子

  • ビッグイシューの販売者・スタッフ
    ビッグイシューの販売者・スタッフ

学生のコメント1

 「BIG ISSUEを売り自らお金を稼ぐことが路上生活をしている方の自立につながる」ということは学んできましたが、実際に販売をしてみると、金銭的な援助以上に、自分という存在を認識してもらいその頑張りを認められたという自信から来る社会的な満足の方が、活動における原動力や心の支えになりました。
 販売をしていてBIG ISSUEの知名度の高さを感じました。「最近は買えずにいたけれど久々に買いました」という方もいらっしゃいました。また、どこからともなく現われて初めての一冊を買ってくださった方には勇気をもらい、自分の見えていないところでも誰かが見てくれているということが嬉しかったです。また、数十分前に通り過ぎた方が後になって買いに来てくれたこともとても嬉しかったです。2時間弱の出会いはこれまで経験してきたものとは全く違う温かいものでした。購入した人はわずかであっても、私のアピールに気づいて興味を持って見てくださる方はとても多かったことにも助けられました。ある購入者の方は「コロナになってから新宿で販売者の方をあまり見なくなった」と仰っていて、様々な人が販売者さんのことを気にかけていることを知り嬉しく思いました。たくさんの人が行き交う新宿でも誰かは見てくれていて応援してくれていることを、販売を通して学び、「一人だけど独りじゃない」と感じることが出来ました。

学生のコメント2

 販売を始めて1時間半以上経ってもいまだに売れず、焦りと孤独を感じてただひたすら立っていましたが、ラスト10分のタイミングで、30代の女性が買いに来てくださいました。千円札を差し出して「おつりはいらないからこれで温かいものでも食べてください」と言ってくださいました(おつりはお返ししました)。ビッグイシューの理念を知っていて、買いに来てくださるというだけで親切なのに、ずっと外で販売していて体が冷えていたことを慮って、どこの馬の骨かわからないような自分のためにしてくれたことに、本当に感動しました。通る人が皆、自分が見えていないように思え孤独に感じていましたが、世の中には心の優しい人もいるのだなと感じました。先の女性のように数少ない人たちが多くの貢献をしてくれることも大事ですが、多くの人が小さな貢献をすることの方がずっと大事だと思います。なぜならすべての人が社会問題の当事者で、周りの人が暮らしやすい環境を作ることが自分の環境の暮らしやすさにも伝播するからです。親切の循環が巡り巡って、自分を含む誰もが取り残されない社会につながるのだと思います。
 また、私の売り方が甘かったことはもちろんあるとは思いますが、あれだけの数の人の視界に私は入ったはずなのに、買ってくれた人はわずか一人というのは、ホームレス問題に関心のない方が多い、もしくは関心はあっても行動するまでに至らない、至れない人が世の中には相当多いのだろうと思いました。実際私自身も、社会問題に関心があって今回の講座を受講しましたが、今までビッグイシューを買ったことはなく、自分の意識が直接的に行動まで結びついたことはあまりなかったように思います。販売体験中、あしなが育英会の募金の方々や、ストリートミュージシャンの方々、外国人の方々に勝手に親近感を抱いていました。このような機会を一度でも経験すれば、サイレントマジョリティでいる自分に危機感を持てると思いました。話を聞くだけなく、実際に赴いてみて分かったことや感じたことがたくさんありました。今回得た気づきをこれからも忘れずに過ごしていきたいです。

正課外プログラム「キャリアの多様性と社会正義」

 本講座の目的は、社会の様々な問題に向きあいながら、社会への当事者意識を形成するとともに、自らのキャリア観を醸成することである。2022年度は「出産をめぐる社会問題」、「セクシュアリティをめぐる社会問題」、「ホームレス・労働と社会問題」、「生活困窮者の社会的孤立と社会問題」をテーマに、ゲスト講師を招聘し、受講者同士の対話を行った。学外実習は新宿にて「道端留学」を実施した。最終回には、同様のテーマで探究学習を行う灘中学校・高等学校の生徒らとオンラインにてディスカッションを行った。
 成城学園の創立者、澤柳政太郎による建学の精神は、「真理と道徳を重んじ、表裏なく気高く、しかも柔和な学生が育つ学校を目指す」ことであり、本科目では特に、「真理と道徳」に焦点をあてる。社会正義の視点から、ライフ・キャリアの多様性を重視し、個人のエンパワメントを高め、長期的なライフ・キャリアに主体的に向きあっていく。

ビッグイシューの取組み

ビッグイシュー446号(2023/1/1発売)
ビッグイシュー446号(2023/1/1発売)

 ビッグイシューは、ホームレスの人々に収入を得る機会を提供する事業として 1991 年にロンドンで始まった。販売者は最初にビッグイシュー誌10 冊を無料で受けとり、その売り上げ 4,500 円を元手に、以後は一冊 220 円で仕入れ 450 円で販売し、230 円を自らの収入とする(ビッグイシュー誌 445 号、 p.2 を引用筆者により一部)。「道端留学」は 、販売者の助言のもと、 実際に 路上でビッグイシューを販売する教育研修プログラムである。

有限会社ビッグイシュー https://www.bigissue.jp/ 
特定非営利活動法人山友会 https://www.sanyukai.or.jp/
2016年度「道端留学レポート」 https://www.seijo.ac.jp/news/jtmo42000000f463.html
2021年度「キャリアの多様性と社会正義について学ぶ 灘中学生とオンライン意見交換会を実施」

※このたびの「道端留学」は成城学園教育研究所の2022年度教育研究助成を受けて実施しました。
文責 勝又あずさ(成城大学 キャリアセンター)