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2024.09.27
SSS#3 日ASEANインドネシア調査報告
成城大学スポーツとジェンダー国際平等研究センター(以下、SGE)は、YouTubeチャンネル『Sport for Social Solutions (SSS)』を運営しています。本チャンネルでは、専門家や行政関係者、アスリートなどの幅広いゲストとともに、社会課題解決のプラットフォームとしてのスポーツに光を当て、情報提供や意見交換を行います。
成城大学スポーツとジェンダー平等国際研究センター YouTubeチャンネル:
SSS第3回目のテーマは「日ASEANインドネシア調査報告」。
SGEポスドク研究員の古田映布と宮澤優士より、2023年11月に実施したインドネシア・ジャカルタでの調査事業に関する報告を行いました。
調査概要
SGEはスポーツ庁再委託事業として、日本とASEAN10ヵ国政府によるスポーツを通じたジェンダー平等を目指す「ASEAN-JAPAN Actions on Sport: Gender Equality」に取り組んでいます。その事業の大きな柱の一つとして、日ASEAN諸国の女性および女児のスポーツ参画における課題とニーズを明らかにすることを目的とした調査事業を実施しています。2023年度は、インドネシア、ベトナム、フィリピンの3ヵ国を対象に、現地の政府関係者、オリンピック・パラリンピック委員会、競技連盟、トップアスリート、女性や女児を支援するNGO団体、体育系大学に所属する女子大学生にインタビューを行いました。
第1回目の実施国は、インドネシア。人口の約87%がイスラム教徒のインドネシアでの気づきを共有しました。
世代間やジェンダー間での種目選択の違い
20代〜60代までの幅広い女性が参加した今回の調査では、年齢によるスポーツ参加への考え方に違いが見られました。宮澤は「20代〜30代の人は激しいスポーツをすることに抵抗感があまりないのに対して、50代〜60代の人は公園でダンスやヨガなどのゆったりとした運動を公園でやるなどが多い」と話します。
また、サッカーは男性、バドミントンは女性など、性別によって期待される種目とそうではない種目が存在し、女性が規範と異なる種目を選択したい場合には、保護者、特に父親の許可が必要であることを解説しました。
貧困格差とスポーツを通じた逆境への挑戦
インタビューの序盤では、アイスブレイクとして「好きなアスリート」に関する質問を行いました。その中で、東京2020大会のバドミントンダブルスで金メダルを獲得したGreysia Poliiさんとバルセロナ1992大会でバドミントンシングルスで金メダルを獲得したSusi Susantiさんを多くの人が挙げました。2人に共通する点として、競技実績の他に地方貧困層出身であることなどの「逆境からの成功」があるそうです。
ポスドクの古田は、インドネシアの貧困格差の問題に触れた上で、だからこそそれらの逆境に対してスポーツを通じて挑戦していくことへのリスペクトやスポーツで成功してお金を稼ぐという意識の強さが存在すると説明。そして、宮澤は今後の課題として地方にも足を運びその状況にも目を向けることの必要性を強調しました。
宗教観と女性のスポーツ参加
イスラム教では、女性は顔や手以外の肌を見せてはいけないと信じられています。その中で、女性は接触の多いスポーツをすることは好まれておらず、公共空間として開かれているスポーツ施設であっても男性がいる空間でヒジャブが取れる可能性から、女性が体育館などの公共施設を利用することは憚られていると説明します。
宮澤は「スポーツの機会が平等に配分されているように見えて、できるスポーツや場所が限られている」と指摘した上で、女性や女児のスポーツ参加において宗教やジェンダー観、そして住んでいる地域に起因する貧困といった交錯する要因が見られたことを調査の収穫として挙げました。
また、古田は女性は大切で守られるべき存在というイスラム教の教えの中で「スポーツは危険なもの」というインタビュー参加者の表現に着目。怪我をする危険性への懸念が女性や女児のスポーツ参加を遠ざけていることを認識し「スポーツが安全なものであるという正しい知識を伝えながら、一緒に現地に合ったやり方を模索していく役割が私たちにはある」と語りました。
最後に宮澤は「全世界的には男女隔てなくスポーツを選べるように推進されているからそうしなさいというのはかなり無理があり、文化を大切にしないことは一つの暴力でもある。伴走しながらいろいろと考えていける機会がここ(本事業の調査)にはあるというのはすごく感じた」と報告を締めくくりました。
今回の記事のフル動画はこちらよりご覧いただけます。