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2024.08.26
2024年7月15日(月)、本学9号館グローバルラウンジにて、国際編集文献学研究センター主催イベント「哲学を手稿とアーカイヴの視点から見る」を開催しました。当日は、本学学生・教員だけでなく、様々な研究機関から幅広い分野の大学院生・研究者を中心に、多くの方々にご参加いただきました。メルロ=ポンティ、ヴァレリー、パスカル、カフカといった哲学者・作家の草稿・アーカイヴをめぐる諸問題について、登壇者やフロアとの間で熱のこもった意見交換がなされ、有意義かつ実りあるものとしてイベントは成功裏に終了しました。
第一部では、メルロ=ポンティやヴァレリーのテクスト編集に携わられたベネデッタ・ザッカレロ先生(フランス国立科学研究センター研究員)をお招きして、「哲学の手稿とアーカイヴから何を学びうるか」(“What can we learn from philosophical manuscripts and archives?“)と題してご講演いただきした。草稿・アーカイヴをもとにした哲学研究の意義について、ザッカレロ先生は次のように言います——手稿や読書ノート、その他の様々な資料は、哲学という営みが、哲学者個人の孤独な抽象的作業ではなく、哲学者を取り巻く様々な具体的な「文化的地平」との対話であることを伝えてくれる。すなわち、草稿やアーカイヴからは、哲学の諸概念が、単一言語、単一民族を基礎とする「国民」という単位を超え出るような、諸文化間のダイナミックな相互作用の中でこそ生まれ出るものだということが見えてくる、と。講演の後半では、こうした観点からザッカレロ先生が世界各地の研究機関・アーカイヴと協同で推し進めている「AITIAプロジェクト」(”Archives of International Theory, an Intercultural Approach”)について、その研究の射程についてご解説いただきました。
第二部では、山上浩嗣先生(大阪大学教授)、塚本昌則先生(東京大学教授)、村瀬鋼先生(本学文芸学部教授)をお招きし、当センター長 明星聖子先生(本学文芸学部教授)を交えてディスカッションを行いました。そこでとりわけ大きな議題となったのは、遺稿の問題です。ディスカッションに先立って、山上先生からはパスカルの『パンセ』、塚本先生からはヴァレリーの『カイエ』について、それぞれの草稿の状況と出版史に関してご紹介をいただきました。そうした草稿から何が見えてくるのか、あるいは、それをどう編集すべきなのか——こうした問いは、まさにカフカのような作家にも共通する問題であり、さらに、村瀬先生からご紹介いただいたメルロ=ポンティの『見えるものと見えないもの』にも同じことが言えます。いずれも共通するのは、「作品」(work)とは何かという問いです。果たして哲学者や作家は「作品」を目指して書いているのか、編集は草稿をなんらかの「作品」としての形に落とし込むべきなのか。こうしたきわめて難解な編集文献学的な問いをめぐって、それぞれの作家の事例を踏まえたうえで、登壇者あるいはフロアとの間で活発な議論・質疑応答が展開されました。
なお、当日はイベント終了後、会場にて懇親会が催され、活発に交流が深められました。
国際編集文献学研究センターでは、今後も定期的に編集文献学にかかわるイベントを開催いたします。その際には、改めて本学サイトでお知らせしますので、ご興味・ご関心のある方は、ぜひご参加ください。