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2021.03.12
成城大学治療的司法研究センター長 指宿信
刑務所を出所した元ヤクザ者を描いた、映画「すばらしき世界」を観た。
これまでも数々のすばらしい作品を世に送り出してくれた西川美和監督が、更生保護の問題について真正面から取り組まれたことに、まずは喝采を送りたい。そして、この映画を通じて少しでも多くの方に犯罪者の更生について考えていただく一助になるよう、この映画の感想をお届けしたい。
物語の主人公は三上という名の元ヤクザ者である。最後の受刑(おつとめ)の罪名は殺人である。それを聞いただけでも普通の人は近寄りたくなくなるだろう。実際、三上はつきあいにくい人物として描かれている。
三上の出所後の生活を追ったストーリー自体はそれほど複雑ではない。そんなシンプルな物語でも、そこに込められているメッセージはいくつもあって、どこに焦点を当てるかは人それぞれだろう。だが、ヤクザが足を洗って生きることの難しさだけでなく、前科者という存在に対する社会の目というものが作品の中で鋭く突きつけられていることは間違いない。
この映画で描かれる社会の人々が大きく二つに分かれていることに、見終わると気づく。一つは、三上を前科者としてではなく、ひとりの人間として(極めて接するのが難しい人物ではあるが)接していこうとする人たち。もう一つは、これまで前科者と接したことがない、ステレオタイプでものを見てしまう人たちだ。
三上は単なる前科者ではない。一度の過ちどころか何度もおつとめをしている。その“直情型”で“暴力的”な気質は、この社会のルールや仕組みには馴染まない。自分の裁判さえ不利にしてしまうほどだ。そんな三上に、ひとりの人間として接するのはそんなに容易いことではない。けれども、三上がどうしてそうした気質に育っていったのか、映画が進むにつれて観客は、徐々に彼の生い立ちに思いをめぐらせるようになっていく。そのとき観客は、この作品に、もう一段深いメッセージが込められていることを知る。
たまたま罪を犯さず、刑務所に行くこともなかった私たちの前には二つの道が用意されている。映画館を出るときにどちらの道を選ぶのか、それは私たち自身の選択である。(了)
<予告編> https://www.youtube.com/watch?v=nUpyqhj2IXk&t=1s
<作品情報> https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/