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  • 2019.11.22

    「連続講座 罪を犯した人の立ち直りを考える~問題解決とその方策」第3回を開催しました。(申込終了)

 11月14日、「コミュニティー・カレッジ:罪を犯した人の立ち直りを考える~問題解決とその方策」の第3回目が開催されました。担当は、本センターの客員研究員でもある弁護士の菅原直美先生です。
 菅原先生は、「生きづらさを抱えた被告人たちと関わって〜刑事弁護の現場から」と題して、ご自身の弁護士としての経験を具体的に交えながら、被疑者被告人の更生について話されました
 まず、先生は、治療的司法の定義について、「刑事手続きの中で被疑者、被告人に対して必要な支援やケアを提供することで問題解決をする司法観」であると確認されました。
 次に、治療的司法の定義の中にもある支援とは具体的にどのようなものを指すのかについて、次のように話されました。まず、支援とは更生支援のことであり、さらに更生という言葉は、「更に生きていく」という意味であり、罪を犯した人にとってそこで人生が終わるのではなくこれから更に生きていかなければならない。そのときにどう生き直すか。というメッセージが込められているそうです。この言葉の解釈は、菅原先生が尊敬している恩師から受け継いだ考え方だと話されていました。
 さらに、具体的な更生支援の中身として次の四つを挙げ、①治療②福祉的支援③社会的つながり④居場所、これら四つの要素の必要性を先生の経験に沿って話されました。
 菅原先生が弁護士としての道をスタートさせて5年目までに一番多く関わったのは、薬物依存症の方々だそうです。初めは恐怖心があったそうですが、実際に接してみると薬物依存者は大きく二つのタイプに分類できると気付いたそうです。まず1つ目のタイプは、優しくて奥ゆかしく、自分が無理だと思った時に無理といえない、何か問題が起こったときに自分だけで解決しようとする人。二つ目のタイプは、虐待を受けていた、受けている人。虐待を受けていた、受けている人は、辛い現実から楽になる為や、自分の家で安心を得られなった為に、ドラッグが出回る確率が高い危険な夜の街にでていくことが多いという理由です。
 菅原先生はそういう人に対してもう少し社会が手助けできなかったのか…と疑問を感じ、どうすれば犯罪をしなかったんだろうと考えることで再犯対策のイマジネーションが湧くとおっしゃっていました。
 薬物依存症の方は、刑罰を科しても、依存症によりまた繰り返してしまいます。したがって、刑罰を科すことは薬物依存症の方の再犯対策にとって強い力をもたず、それよりも依存症から抜け出す治療や、福祉的支援が必要となります。
 しかし、それだけでは薬物依存症者の再犯率を100%無くすには足りず、さらに依存者を支えてくれる社会的なつながりや居場所が必要です。例えば薬物依存者のための民間リハビリ施設であるダルクなどが挙げられます。菅原先生も被告人に対して様々な情報を提供することや、仮の居場所になってあげることもあるということでした。
 実際に薬物依存症者の再犯防止のためには社会的つながりと居場所が必要だと菅原先生自身が実感した弁護例として、一人の薬物依存症の青年について話されていました。年齢は二十歳になったばかりで、福祉施設で働いていて大麻使用により逮捕、その後クリニックに通院治療していましたが、執行猶予中に大麻を使用してしまい、自首をして再度逮捕されました。クリニックに通院していたがケアが不十分だったため、依存者更生施設に入所することに決定。薬物依存症者のためのリハビリ施設では一日中さまざまなカリキュラムが組まれており、常に他の入所者や施設員の方と一緒にいるので自然に薬物と関係を断つことが出来ます。カリキュラムには、薬物を使用してしまった自分自身について見つめなおす時間などもあります。さらに、施設が薬物依存者にとっての居場所にもなり、他の入居者との間に社会的関わりや絆も生まれます。この青年は長男で責任感が強く、感情表現が苦手で辛いことをため込んでしまう性格でしたが、施設に加入したことで彼自身も成長し、内面の変化が見られたそうです。
 この青年の二度目の逮捕での裁判において、青年が入所した施設が薬物依存者を更生させるためにどんなことを行っているのかについて、菅原先生はDVDを作って裁判官に説明されました。裁判官は薬物依存者や、厚生施設に対しての知識が浅く、職務柄簡単に施設訪問などができないためにDVD化の必要があったためです。そして、菅原先生は再度の執行猶予を勝ち取りました。覚せい剤の事案にとって、再度の執行猶予はとても珍しいことで、年に一件ほどしかないそうです。再度の執行猶予を勝ち取った裁判の判決文を抜粋すると、「・・・執行猶予判決後に本件犯行に至ったことは偶発的な面が多分にある上、犯行後は自首し、社会内での立ち直りに向けた環境が相当程度整えられている・・・これらの組むべき事情を最大限考慮すると、若年の被告人に対し、今一度社会内における更生の機会を与えることが許せないものではない・・・」。罪を犯してしまった以上、元に戻ることはできない。しかしまた信じてやり直す機会を与えるという裁判官のあたたかさが感じられる判決文であり、そういう社会になって欲しいと菅原先生は話されていました。
 菅原先生は、弁護士が治療的司法に取り組む理由について、「司法とは問題解決をする場所です。皆が求める問題解決とは、もう犯罪者が二度としない、犯罪者が犯罪者として生きないという結論であり、そのためには再犯防止のための更生支援が必要になり、犯罪者を更生させるまでが弁護士の仕事となるから」だと説明されていました。
 講演の最後では、治療的司法があまり認知されていない日本において、治療的司法に取り組む菅原先生を励ますものは何かについて話されました。オーストラリアのシドニーには、薬物依存症患者が利用できる注射室を内包する施設があります。そこでは、薬物を注射する部屋とそれを監視する看護師、リラックスルームなどがあり、患者に一度の使用は認めそこから支援を与えています。薬物を規制すればするほど薬物依存者は陰に隠れてしまい解決にはつながらないからです。このように罰を与えるのではなく更生支援をすることを重視した海外の取り組みが、自分のしていることは間違っていないと菅原先生を勇気付けているそうです。
 最後に、今回の講演後に私が感じたことは、第一に、菅原先生が再度の執行猶予を勝ち取った裁判のお話をきいて、先生が施設のDVDを作成して裁判でそれを見せ、裁判官の更生施設理解や認識を深めたことが、判決文にもあるように「社会内での立ち直りに向けた環境が相当程度整えられている」と裁判官に判断させたのだと思い、被告人に刑罰を与えることではなく被告人の更生に全力を尽くしている先生の姿に尊敬の念を抱きました。
 第二に、最近ニュースなどでも芸能人の薬物所持による逮捕のニュースが後を絶たず、何度も繰り返し逮捕されているケースもよく目にします。芸能人による薬物使用ですら後を絶たないのならば一般人の間にはさらに多く薬物が出回っていると思い、自分には全く関係ないものではないことを感じました。
 第三に、薬物依存症の方に対し刑罰を科すことは一時的な反省に繋がるかもしれませんが、依存症とは病気の一種なのでそれだけでは解決につながらないことがよく理解できたと共に、今回菅原先生の弁護例に登場した裁判官のように、薬物依存症者が再犯しないために刑罰を科すことの効果の低さ、逆に更生支援や施設の有効性について日本の裁判官の関心、知識が高まっていき、薬物依存者に対する治療的司法が当たり前となる社会になってほしいと思いました。私自身も、司法解決が罰を与えることを当たり前とする固定観念にとらわれず、日々勉強に取り組みたいと思います。
 次回の講座の担当は、山田恵太客員研究員(弁護士)です。「罪を犯した障害者と向き合って~司法と福祉の連携の可能性」というテーマで、11月21日に開催予定となっています。

治療的司法研究センター 学生サポーター N・M

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