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  • 2018.03.29

    【開催報告】ワークショップ「能・狂言をめぐる東西の往還」

 本学の文部科学省・私立大学研究ブランディング事業「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた世界的グローカル研究拠点の確立と推進」の一環として、2018年3月22日(木)の午後4時から午後6時過ぎまで、成城大学民俗学研究所会議室において、民俗学研究所主催によるワークショップ「能・狂言をめぐる東西の往還」が、下記のプログラムで開催された。

牧野陽子(成城大学経済学部教授)
 ラフカディオハーン作"Chin-chin Kobakama——The Fairies of the Floor-Boards"と新作狂言「ちんちん小袴」
大谷節子(成城大学文芸学部教授)
 細川俊夫作オペラ「班女」「松風」と世阿弥作物狂能
小田幸子(能狂言研究家・日本大学芸術学部非常勤講師)
 広がる能の世界
全体討議

 日本・アイルランド外交関係樹立60周年の昨年7月、アイルランド三都市において、狂言大蔵流茂山千五郎家による狂言公演が行われた。上演作品の内、「猫と月」はW.B.Yeats(1865-1939)の新作狂言、「ちんちん小袴」は、Lafcadio Hearn(1850-1904。帰化名、小泉八雲)が日本の民話を基に再話した"Chin-chin Kobakama——The Fairies of the Floor-Boards"からの新作狂言であった。W.B.Yeatには、能にインスピレーションを得て書いた舞踊詩劇「At the Hawk's Well(鷹の井戸)」があり、これを基に横道萬里雄が書いた能「鷹の泉」は、1949年喜多実によって上演されている。この「鷹の泉」はさらに1967年銕仙会制作、野村万之丞演出によって「鷹姫」として再生した後、今日まで多くの演者によって舞台に掛けられ、最も上演回数の多い新作能となっている。このW.B.YeatsとLafcadio Hearnの作品を原作とする新作狂言の二曲は、昨年11月末、ハーンゆかりの松江で日本初演を迎え、本年3月に国立能楽堂で再演された。また、本年2月新国立劇場で作曲細川俊夫、台本ハンナ・デュブゲン、振付演出サシャ・ヴァルツによるオペラ「松風」が上演された。これは、2011年5月ブリュッセルのモネ劇場での初演以来、ポーランド国立歌劇場、ルクセンブルク歌劇場、ベルリン州立歌劇場、リールオペラ座、ポーランド国立歌劇場などヨーロッパ各地で好評を博した舞台の日本初演であった。このオペラ「松風」は、楽器も発声法も装束も面も能の様式を用いてはいないが、能「松風」を素材とするのみならず、能に強い影響を受けて生まれた作品である。
 今回のワークショップは、昨年末から今年初めにかけて行われた二つの公演を糸口として、能や狂言がヨーロッパに紹介された江戸末期以来、現代に至るまでの、能や狂言をめぐる東西往還の様相をグローカル研究の視点から解こうとの試みであった。
 牧野氏はLafcadio Hearn研究の成果をもとに、ハーンの再話集を刊行したちりめん本から話を説き起こし、原話と新作狂言の世界観について語った。大谷氏は能楽研究の成果をもとに、物狂能という能独自の表現をキーワードとしてオペラ「松風」によって可視化されたものについて語った。小田氏は演劇研究の蓄積をもとに、音楽面に注目し、能に影響を受けた近年の新しい音楽や演劇の動向について語った。なお、会場では銕仙会の協力によって「鷹姫」のビデオ映像が一部紹介された。

  • ちりめん本『ちんちん小袴』表紙
    ちりめん本『ちんちん小袴』表紙
    (経済学部 牧野陽子先生 所蔵)

  • ハーンちりめん本各種
    ハーンちりめん本各種
    (経済学部 牧野陽子先生 所蔵)