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2026.07.10
渡邊隼史准教授の論文 “Subexponential growth dynamics in complex systems: A piecewise power-law model for the diffusion of new words and names"(日本語訳:「新語や新名称におけるサブ指数拡散」)が 米国物理学会のPhysical Review E誌に掲載されました。
加えて、同学会の一般向けの広報雑誌であるPhysics誌にフォーカス論文として、サイエンスライターによる解説記事が掲載されました。
Physics誌の紹介記事:https://physics.aps.org/articles/v19/99
論文:https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/f3d5-2tb8
H. Watanabe, Phys. Rev. E 114, 014304 (2026).
(論文の無料版:https://arxiv.org/pdf/2511.04106)
■論文の概要:
新しい言葉やアイデアが社会に広がる過程は、一般に、初期には指数関数的、つまり2、4、8と倍々ゲームのように増加し、その後に成長が鈍化するS字型の曲線として理解されてきました。
本研究では、約10億件の日本語ブログ記事と、Wikipedia等に基づく約100万語の辞書を用いて、分析可能な約2,000語の新語・新名称がどのように広がるのかを調べました。対象には、社会的に広く注目された語だけでなく、これまであまり注目されてこなかったアイドルの名前、地方の地名、新薬の名前など、比較的ニッチな語まで含まれていることが特徴です。
その結果、指数関数よりも遅く、広がるにつれて徐々に成長が鈍くなる「サブ指数拡散」が、無視できない頻度で現れることが明らかになりました。このようなサブ指数的な広がり方は、一部の感染症流行の初期段階などでは知られていましたが、社会における言葉、話題、アイデア、新商品などの普及現象としては、これまでほとんど注目されてきませんでした。
さらに、語の広がり方は、その話題がどれだけ広い範囲で共有されているかと関係していました。アイドルの名前や地方の地名などのニッチな語は、ほぼ線形に近い形、つまり一定期間ごとに2、4、6、8、10と増えるようなイメージでゆっくり広がる一方、暗号通貨やシェールオイルのような社会的関心の高い語や流行語は、2、4、8、16と倍々ゲームに近い形で急速に広がる傾向がありました。そして、多くの新語はその中間的な広がり方を示しました。
ミクロな行動モデルによる分析から、この成長曲線の形は、人々が主に自分のコミュニティ内で話題を共有する「内向き度」と関連づけられる可能性が示されました。ここでいう内向き度とは、その話題が、まだ知らない人に広がるよりも、すでに関心をもっている人同士で話されやすい度合いを意味します。内向き度の高い話題に関する言葉ほど、広がった後も同じような関心をもつ人々の間で語られやすく、そのため広がる勢いが次第に遅くなると考えられます。
本研究は、新語の拡散を通じて、新しい文化、商品、現象、価値が社会の中でどのように広がっていくのかを理解するための新しい視点と分析手法を提供するものです。また、サブ指数的な成長の研究は、成熟経済における成長のように、時間とともに成長が遅くなっていく現象の理解にも役立つ可能性があります。