7月11日(水)、「第9回 学長とランチミーティング」が8号館地下1階ラウンジで行われました。今回のテーマは「大学での“学び”を考える」です。
平成21年に実施した成城大学学生実態調査の結果や、昨年の中央教育審議会に提出された資料(参考資料として配布しています)において「日本の大学生の学習時間が少ない」というデータが出ました。その問題を受け今回のテーマとしました。
以下、意見交換の内容を抜粋します。
油井学長(以下学長)より挨拶
今、日本の大学教育については、いろいろな批判があります。将来がなかなか予測できない変化の激しい時代を学生諸君はこれから生きていかなければならないのだけれども、そのときには大学生はしっかりとした勉強を身につけていかなければなりません。それに対して「今の日本の大学は、十分な教育を提供しているだろうか」、「日本の大学教育の質が低いのではないか」という批判がほうぼうで出ています。また、最近はグローバル社会で日本人だけでは仕事ができるわけではなくて、文化的な背景の違ういろんな国の人と仕事をしていかなければならないのだけれども、「そういう準備が日本の大学生にできているのか」というような批判。そういう社会で活躍できるような学生を育てていかなければならない。「大学はその基礎を育てて与えなければならない」という批判がたくさんあります。今日はそういったことを示す資料を用意しています。
【資料の説明】
資料(1) 「成城大学学生実施調査2009年度」より抜粋
- 大学へ登校し、授業に出席するという点だけに限定すれば、非常に真面目な学習態度といえる。
- その一方、講義時間外・試験期間外での1日の学習時間は、半分近い学生が「ほとんどしない」と回答し、勉強をする学生であっても半分以上が「1時間未満」と回答している。1日2時間以上勉強する学生は6.6%に留まった。
資料(2) 中央教育審議会 大学分科会大学教育部会(H23.8.22)資料
「日本の大学教育-3つの問題点(金子元久氏)」より抜粋
- 卒業要件を週5日間で割り出すと、授業を含めて1日8時間学習することが大学設置基準の想定している学習量になります。
- 日本の大学生の学習時間は4.6時間と国際基準の半分に留まった。
外国の大学生の勉強時間と比較すると、日本の大学生は勉強しないという統計的なデータが出ています。それには学生諸君の問題と大学側の問題があると思います。そこで、これからの成城大学を“学び”という面から見て、どういう風に変えていったらいいかを皆さんから聞きたいというのが今回の趣旨です。
Q.成城大学での勉強の感想は?(留学生に対して)
- 日本の学生はバイトをやりすぎている。
- 部活をやっていて勉強する時間がなさそう。
- 勉強よりアルバイトや就職活動の方が充実しているようだ。
- 自分の国の授業ではエッセーを書く宿題がたくさん出るので、大変忙しい。
- 問題は授業ではなくて企業だと思います。企業にとっては大学の名前が大切で、成績はあまり見ていない。ドイツでは大学で勉強しなくてもいいのだけれど、就職活動に良い成績が必要なので、そのために勉強をしている。ドイツでは大学の名前は関係ありません。
- 勉強の内容と、社会に出て働くときの内容が違うことが変なことだと思った。勉強したことを将来の仕事に役立てることが大切だと思います。
Q.今の留学生の発言を受けてどうですか?
- アルバイトやサークル活動と勉強の両立を、外国ではどうやっているのか知りたい。
- 自分なりに日本の学生が勉強しないのか考えてみました。学校で学んだ理論と社会での実践がまったく結びついていないのではないかと思います。例えば、サブゼミというのがある大学もあるので、時事問題を取り上げながら理論と結びつけるようなコースや研究会があったら、もっと勉強が面白くなるのではないかと思います。
- 勉強をしてなくても、いい企業に入れてしまう。勉強をすれば将来のためになるという風に学生自身が思っていないと、企業も勉強したからといってきちんと働けるかどうか評価しないと思います。会社に入った友人も同じように言っていました。企業の人も学生が何を学んでいるかわかっていないように思います。
- 大学自体が「勉強は大事」と言っておきながら、単位を取るのが簡単です。それが学生が勉強しない一因ではないでしょうか。大学側が学生に気を遣っているのではないかとも思うので、改革しなければならないのではないでしょうか。
- 受験のときから比べると、入学してからは単位を取るために勉強しているような雰囲気に流されてしまって、モチベーションが下がってしまった。
Q.クラスで日本の学生は勉強に対して積極的ですか?発言はしますか?
- 消極的という感じがする。
- 自分ばかり発言してないかと周りに気を遣ってしまう。
学長
日本ではしばしば言われていることですが、大学での勉強が就職とはあまり関係がない、それから学校の名前で学生を採用している。ただ企業の側も少しずつ変わってきています。今まで大企業は潰れることがなかった。だけど、他のアジアの企業がどんどん成長していて、今や有名な企業も倒産することがあります。そうなると企業の方も採用政策を変えていかざるを得ない。結局、競争相手は日本の社会の中だけでなくてグローバルな企業と競争しないといけない訳だから、大学の名前だけで採っても何の意味もない。やはりその人がどういう能力を持っているかが重要になってきます。それが日本の場合にはどういう勉強したかということと、その人の能力との関係をあまり強くは見ない。法学部を出ていてもマーケティングをやったりということはあるのだけど、ただその人が大学の中でどういう勉強をして、どういう力を身に付けてきたかということは見るようになってきています。
だから、この大学にいる4年間の中でどういう力を身に付けるかが、これからのあなた方の人生ですごく大きな意味を持ってきます。その場合重要なのは、アクティブに自ら積極的に学ぶということです。日本の大学も変わりつつある。社会では批判もあるけれど、我々自身でも変わっていかなければなりません。
留学生の皆さんの大学ではGPA(Grade Point Average)はやっていますか?今ヨーロッパの大学はGPAを入れようと大学改革をやっています。簡単に言うと、試験で落とした科目をマイナスで反映、平均点がどんどん下がってしまうという制度です。是非皆さんには積極的に学んでほしい。その場合、今の成城大学のシステムは果たしてそうなっているのかということが、学長という立場では問題になってきます。成城では、ゼミがどこかの段階で必修になっています。先ほど留学生からエッセーの話があったのだけれども、ゼミや講義でも、卒論だけではなくエッセーをどんどん書くようなことをしていかなければならない。それをしてしまうと、学生が根を上げるかもしれないのだけど。今、日本の大学では週に10科目くらい履修していると思うので、薄くたくさんやっている。本当は少ない科目でもインセンティブにやる学びに変えていかなければなりません。そのあたりはどう思いますか?
- アクティブな人ほど、大学に行くと、逆に大学の外に行きたがる傾向があると思う。
- 授業に出席することで満足している。先生の側も、誰に向けて授業をしているのだろうと思うときがある。また、企業にしても、日本では大学を卒業しなければならないという傾向が強く、勉強そっちのけで就活をしているという問題もある。
- 勉強しようと思っていても、他の大学に比べて成城大学の図書館は開館時間が短い。大学側から十分な勉強時間を提供されていない。パソコンが必要なときも、休日にはメディアネットワークセンターが開いていない。自分で他大学を調べてみたところ、大学のレベルと図書館の開館時間は何かしらの関係性があるのではないかと思ってしまう。
Q.そろそろ終了の時間ですが、今日の感想は何かありますか?
- 高校のときの勉強は大学受験に直接結びついて、勉強が成果になった。大学では、勉強をちゃんとやったからといって、就職のときに直接関係がなくなってしまっているのが残念。語学などの社会に出て直接成果になるものは、周りの人もよく出席している。
- 3号館や8号館の明るい教室を休日開放してくれるとありがたい。
学長
確かに環境を用意するのが大学側の仕事であると思いますが、じゃあ建物を新築して明日からと言えないところが辛いところです。ただ方向性としては、そういう風に向いていかなければならないと思っています。それまでは工夫してつないでほしいと思います。
参加学生からの質問
社会に出てから役に立つ学びの能力というものは何ですか?また、社会に出てから役に立つ学ぶ力というものは大学で伸ばせるものですか?
※ ここでは、油井学長(経済学部教授)、司会の神田学生部長(経済学部教授)、今回のランチミーティングに出席していた伊地知教務部長(社会イノベーション学部教授)のそれぞれの方が答えています。
学長
最初の質問については、社会に出てどういう問題に自分たちが直面するかまったく分からない。答えがない問題にぶつかることの方が普通だと思う。そのときにどういう風に考えたらいいのだろうか、という能力が必要とされている。例えば「海外に行って新しい工場を立ち上げろ」と。すると日本の法制度とは違う法制度なので、「会社を作るってどういうこと?」とある程度具体的に分かると思う。例えば「弁護士を雇えばいいのだ」とか。そういう知識が必要だと思う。しかし、雇ったからと言って全部問題が解決するわけではなく、いろんな新しい問題がどんどん出てくる。そのときに正面から問題に向き合って、答えを探す力が今必要とされているのではないかと思います。そういう力は大学の勉強を通して身につけていかなければなりません。
大学での学びは大学を卒業したら終わるのではなくて、その後のさっき言ったような問題に対応する能力をつけるために学ぶ。ゼミ、または卒論を書く時もテーマを自分で設定して、それに対してどういう風に考え方を積み上げていけばいいのかをトレーニングする場が大学だと思っています。だから、大学での勉強は社会に出て役立つ。そういうトレーニングをしないで、与えられた授業でただ単に覚えていくだけでは、社会に出てから役立つ勉強にはならないと思います。
神田学生部長
中学校時代にピタゴラスの定理を覚えさせられたじゃないですか。「何でこんなことやるんだ」と、「俺はこんな直角三角形なんて興味ないよ」と思いつつも嫌でもやっていましたよね。図形とかは論理的に物事を展開していくという、「ああいう筋道でやっていくんだ」というすごく大事なことなのですね。だから数学を一生懸命勉強すると、そういう論理の展開の仕方を覚えられて、仮説を立てて検証して説明するということがだんだん上手になる。
伊地知教務部長
学長と一緒の意見で、言葉で言うと「メタ知識」と言う、つまり会社を作るとか、レポートの知識だけではなくて、本当にどう考えて問題を設定して、どう問題を解決していったらいいかというのを身に付けるのが大学。この先長く、死ぬまで常に学習しなければならない。それを身につけるのが大学です。
神田学生部長
レポート作成はすごく大事なんですよね、会社に入ってから。報告書とかプレゼンテーションの作成にすごく有効です。そういうことも、大学で何度も経験した人はぜんぜん違います。そういうトレーニングを日々やっているんだと思ってくれると、大学の勉強は本当に役に立ちます。
どうも皆さん、長時間ありがとうございました。これからも教育の改革に役に立つように努力したいと思います。
【学生部】