俵木 悟 教授「文化史実習Ⅱ」

— フィールドワークから学ぶ多様性と共感力 —

俵木 悟 教授「文化史実習Ⅱ」

教員基本情報

氏 名:俵木 悟(ひょうき さとる)

所 属:文芸学部

職 名:教授

専門分野:民俗学

授業概要

対象者:文芸学部文化史学科2年生

授業形態:演習

実施学期:2019年度通年

履修者数:29名

※ページ内のpoint!は授業のポイントです

授業内容と取材当日の授業状況について

 本授業は、文芸学部文化史学科の選択科目における実習科目として2年次に配置されている。夏期休暇中に実施される実地調査に向け、前期授業において資料収集やフィールドワークに関する基礎的な知識を培う。後期授業においては、各自が調査した結果をカード化、キーワード化し、調査結果の要点を抽出しながら報告書を作成するという通年の授業である。
 この度の取材は、夏期休暇中に行われた実地調査に同行させていただいた。場所は、茨城県潮来市徳島地区。霞ケ浦に近い利根川水系の鰐川に面し、水田稲作と霞ケ浦での内水面漁業を主生業としてきた地区である。学生たちは9月11日~15日まで、4泊5日の日程で合宿しながら調査を行った。

取材初日(2019年9月11日)の授業は、以下の流れで進められた。

実地調査(初日)の流れ

①潮来バスターミナルに集合(各自で高速バス等を利用して現地集合)

②宿泊先ホテルの送迎バスでホテルに移動

③チェックインと昼食

④調査地に全員で移動 (旧徳島小学校の跡地を拠点とする)

⑤教室内で先生から注意事項等の説明

⑥各自の調査テーマに基づいて徳島地区を調査

⑦宿泊先ホテルに戻る

⑧夕食後にホテル内で各自の調査状況の報告と先生からの諸注意

⑨就寝

武田 礼子 特別任用准教授「留学準備演習」

 実地調査の初日、先生と学生は11時30分に現地のバスターミナルで集合した。TA学生2名も引率に加わり、点呼を取って宿泊先への移動が行われた。
 ホテルでの昼食後、調査地となる徳島地区に全員で移動し、5日間の拠点となる旧徳島小学校跡地のふれあいセンター2階の教室にて、調査前のミーティングが行われた。地区長さんもお越しくださり、挨拶があった。さらに、この地は川沿いに集落があり、昔から水とともに暮らしてきたという背景や、本実地調査の直前に台風15号による被害を受けて復旧作業に追われていること(電気は前日の16時に復旧したばかりで、民家の屋根瓦が飛んだり、ガラスが割れたりした)、今年は梅雨が長かったため稲刈りの時期に台風が重なってしまったこと、また、調査の最終日には地区の住民の方々との懇談会を行うので多くの学生の皆さんに参加してほしい等のお話があり、学生たちはメモを取りながら、真剣に聞き入っていた。
 つづけて、先生から調査中の決まりごととして「毎日、12時からの昼食時間と調査終了の17時には拠点に戻ってくること」といった連絡の後、調査における留意事項として、①地区の方に話をお聞きする際は、時間の都合を確認するなどの配慮を心がけ、都合がつかない場合は、別日に訪問できるか確認したり、他の詳しい方にお話が伺えないか聞いてみること、②調査が終わったらお礼状を書くので、話を聞かせてもらったら、名前と連絡先(住所や電話番号)を必ず聞くこと、③話を聞かせてもらった場合のお礼用の手ぬぐい(先生が事前に準備)を5枚程度各自持参すること、④調査中は神社や船溜りなどのランドマークを確認すること、などの説明があった。最後に、民俗調査は合理的にはいかないものだから、相互に情報交換をしながら徐々に進めていこう、と学生を励ます言葉もかけていた。

 こうして、14時から学生たちは調査に繰り出した。
学生は各自で調査テーマを設定しているため、それぞれ個人調査となるが、似通ったテーマの人と集まって調査に出たり、単独で調査に繰り出すなど、様々なスタイルが見受けられた。

学生は調査を進める中で行き詰ったり、資料をまとめる必要が生じた際は各々拠点に戻り、先生やTA学生に相談する姿も見られた。また、拠点に戻っている学生同士で情報交換もさかんに行われていた。

No. 調査テーマ(抜粋)
1 「お酒盛り」と鹿島みろくの関係について
2 伝統芸能 あやめ祭りについて
3 子供の生活の変容について
4 徳島の正月・小正月の習俗
5 潮来市徳島の昔話・伝説
6 水郷の街での人と河川のかかわりについて
徳島の出産の祝い方及び誕生日の祝い方について
8 徳島の郷土料理と伝統料理について
9 徳島の葬送・墓制
10 いた恋いた婚。過去と現在の潮来の婚姻の在り方の変化

武田 礼子 特別任用准教授「留学準備演習」

 調査終了の17時には全員が拠点に集合し、調査の簡単な状況確認が行われた。学生たちは、調査初日のためにうまく住民の方に声掛けができなかったり、必要な情報が得られなかったり、と少し疲れた表情も見られた。
 ホテルに戻り、夕飯後の19時30分から全員が大会議室に集合し、各自の調査の進捗状況や、情報共有等が行われた。学生一人ひとりの報告に対し、先生からは個別のアドバイスや全員にとって有益な情報となるような的確なコメントが加えられ、学生たちが頷きながら、深く考えている様子が印象的であった。また、住民から話を聞けなかった学生に対しては、聞き方の工夫について、例えば「年中行事」という大括りな言い方ではなく、「お正月」「お盆」「節句」などのもう少し具体的な表現にしてみたり、農作業中の方に伺うのであれば一緒に作業させてもらいながら聞いてみたらどうか等の提案がなされ、学生たちは熱心にメモをとっていた。その他の学生からは、古い地図や航空写真を手に入れたいといった要望が出ると、皆で相談し、翌日、市役所や近隣の図書館へ行くグループが作られた。この他、お寺、石材店、農協、シルバー人材センターなどに一緒に行くグループもできた。夕方の調査終了時は疲れの見えた学生たちの表情も、明日以降の調査に向け、やる気に満ちたいきいきとした笑顔が見られるようになった。

取材2日目(2019年9月12日)の実地調査は、以下の流れで進められた。

実地調査(2日目)の流れ

①調査地に移動(旧徳島小学校の跡地)

②教室内で先生から注意事項等の説明

③各自の調査テーマに基づいて徳島地区を調査

④昼食(旧徳島小学校跡地の教室内にてお弁当)

⑤各自の調査テーマに基づいて徳島地区を調査

⑥宿泊先ホテルに戻る

⑦夕食後にホテル内で相互の調査進捗状況の報告と先生からの諸注意

⑧就寝


調査2日目も朝の9時から全員で拠点の小学校跡に移動するところから始まった。市役所へアポイントを行う学生や前日に住民の方へ訪問の約束をした学生など、各々調査に出発していった。印象的であったのは、前夜の情報交換で得た情報をもとにグループを変えて調査に出る姿や、話を引き出すのが上手な学生が先導して、前日に話を聞けなかった学生を連れて調査に出る姿など、学生同士の連携が強化されている様子であった。学生たちは前日の調査で少しずつコツをつかんだようで、「家にお邪魔して貴重な資料を見せてもらえた」「農作業のお手伝いをした」「川沿いでの説明をしていただけるアポイントをとった」等、調査に大きな進捗が出ていた。また、ジュースやブドウ、スイカなどを住民の方からいただき、親交が深まっている様子も見受けられた。調査開始からたった1日で、ひと回りもふた回りも成長している姿が見られた。
 本実地調査の結果については、後期授業において各自で情報をまとめ、演習形式の発表を行うとともに調査報告書の原稿執筆が進められる。報告書の完成が待ち遠しい。

教員インタビュー(Q&A)

Q.授業のポイントを教えてください。

A. この授業のポイントは、なんといってもフィールドワークにあります。実際に1つの地域に滞在して、住民の方々と対話しながら、実地にその土地での暮らしやその移り変わりを学ぶことになります。とはいえ、ただ闇雲に現地に行っても有効な調査はできませんし、現地で見聞したことをまとめて報告原稿を書くには、情報を整理し、関連づけを行う方法についても学ぶ必要があります。現地調査を中心として、そこに至るための事前調査から、調査成果の取りまとめまでの一連の工程を、実際に学生たちに体験してもらうことになります。

Q. 授業準備の詳細について教えてください。

A. フィールドワークというと、実際に現地で人の話を聞くことばかりを思い浮かべるかもしれませんが、わずか1年の期間で調査の成果を挙げるには、現地でできること以外のところでの作業も重要です。統計データや、周辺地域での調査研究の成果などを参照しながらでないと、現地で集めてきた資料や情報の中から意味のある発見をすることはできません。そのために、資料の検索の方法や、インターネット上のデータベースの使い方なども教えます。ただし授業の時間は限られていますから、それらを活用しての情報収集は、各自の作業として常に行ってもらわなければなりません。

Q. 学生への期待を教えてください。

A. フィールドワークはたんに学問的な方法というだけではありません。自分とは世代も生活経験も大きく異なる人たちの生き方を、頭だけでなく五感を通して共感的に理解しようとする試みです。この経験を通して、広い意味でのコミュニケーションの能力や、他者理解の基礎的な能力を磨いてほしいと思います。
同時にフィールドワークは楽しい経験です。調査で見聞するいっけん無秩序で取るに足らないような雑多なことから、意味のある発見をする面白さを学生たちにも感じてほしいと思います。ごくありふれた身の回りのものごとのなかにも、私たちの生活を豊かにしたり、問題を解決するための種がたくさんあります。そのために、「普通の生活」が時代や地域に応じて多様であることを知ってほしいと思います。

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