イベントの記録

  • 2017.08.04

    【開催報告】International Symposium Glocal Perspectives on Intangible Cultural Heritage : Local Communities, Researchers, States and UNESCO (「無形文化遺産をグローカルに見る—地域社会と研究者、国家、ユネスコの相互作用」)

 本学の文部科学省・私立大学研究ブランディング事業、「持続可能な相互包摂型社会の実現に向けた世界的グローカル研究拠点の確立と推進」の一環として、国立文化財研究機構アジア太平洋無形文化遺産研究センター並びに文化庁との共催で、2017年7月7日(金)から9日(土)日まで、成城大学法人棟3F大会議室(7月7日・8日:基調講演並びに研究発表、討論)と厚木南公民館体育室(7月9日:国の重要無形民俗文化財・相模人形芝居公演観覧)において、公開国際シンポジウム、Glocal Perspectives on Intangible Cultural Heritage : Local Communities, Researchers, States and UNESCO(「無形文化遺産をグローカルに見る—地域社会と研究者、国家、ユネスコの相互作用」)が開催された。

 この国際シンポジウムには、元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏や現ユネスコ(パリ本部)無形文化遺産課長・Tim CURTISR氏をはじめ、カリフォルニア大学デービス校のMichael D. FOSTER教授、韓国・全北大学校のHanhee HAHM教授、ベトナム・国立文化芸術研究所のThi Hien NGUYEN博士、イラン・Shahid Beheshti大学のJanet BLAKE教授ら、アジア太平洋地域を中心に、世界13ヶ国から90人以上の無形文化遺産保護に関心を持つ研究者や各国政府・自治体、NGO等の無形文化遺産保護の実務担当者等が参加した。
 
 シンポジウムの初日(7月7日・金)には、成城大学戸部順一学長や成城大学グローカル研究センター・上杉富之センター長、アジア太平洋無形文化遺産研究センター・岩本渉所長らの開会の挨拶の後、以下の2つの基調講演と3つのセッション(研究発表)が行われた。
 
 基調講演では、元ユネスコ事務局長の松浦晃一郎氏がThe UNESCO Convention for the Safeguarding of the Intangible Cultural Heritage and Its Glocal Perspectivesと題し、松浦氏がユネスコ事務局長時代に採択された無形文化遺産保護条約の成立の経緯や背景を述べるとともに、グローバル化とローカル化(すなわち、グローカル化)の観点から無形文化遺産保護条約成立の意義や意味について述べた。一方、メキシコ国立自治大学のLourdes ARIZPE教授は、基調講演としてToward Incorporating Local People’s Creativity in a New World Cultureと題するビデオメッセージを寄せ、混迷する現代社会において無形文化遺産等の「文化」が持つ意味や意義がますます重要と成りつつあることを指摘し、そうした中、ローカルな人びとが発揮する創造性や多様性を無形文化遺産等としていかに国民国家や国際社会の中に包摂していくかが今日的な課題となっているかということを論じた。
 基調講演の後は、午後にかけて、以下の3つのセッション(第1、2、3セッション)が行われた。
 
 すなわち、第1セッション、How local communities, local officials, researchers and government officials collaborate for the implementation of the UNESCO’s ICH convention (inventory making, safeguarding, nomination and inscription)?では、地域社会や地域の実務担当者、研究者、政府担当者は、ユネスコの無形文化遺産保護条約(目録の作成や保護、無形文化遺産としての登録手続きなど)をどのように実行しているのかについて、韓国(Hanhee HAHM発表とYounghoon HA発表)やベトナム(Thi Hien NGUYEN発表)、日本(Minoru KOBAYASHI発表)の事例が報告された。続く第2セッション、What has been the transformative impact of the Convention, notably how have communities accessed its impact?では、ユネスコ無形文化遺産保護条約が地域社会に対してどのような変化や影響を及ぼしているのかについて、特に、地域社会はそうした変化や影響に対してどのように対応しているのかについて、インド(Shubha CHOUDHURIビデオ発表)や中国(Deming AN発表)、日本(Hiroyuki SHIMIZU発表)の事例が報告された。第3セッション、What is the role of researchers as “cultural brokers” in assessing the impact of the implementation of the Convention?では、ユネスコ無形文化遺産保護条約を実際に施行しその効果や影響を評価する上で「文化仲介者」(cultural broker)としての研究者が果たした役割について、タイ(Alexandra DENES発表)と日本(Satoru HYOKI発表とSeiichi NAKAJIMA発表)の事例が報告された。

 第2日目(7月8日・土)には、以下の2つのセッション(第4、5セッション)と総合討論が行われた。第4セッションでは、What is the possible feedback mechanisms for local communities to communicate to UNESCO, the impact of the Convention on them?と題し、無形文化遺産保護条約の施行が当該遺産を保持し、保護する地域社会に対して及ぼした影響をユネスコへフィードバックする体制をいかにして確保、整備するかについて、イラン(Janet BLAKE発表)、キルギスタン(Cholpona USUBALIEVA-GRYSHCHUKビデオ発表)、インド(Vayalkan JAYARJN発表)、中国(YIQI HA発表)の立場からの報告ないし事例報告が成された。最後の第5セッションは、アジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)が中心となって企画・開催したセッションで、New initiative to encourage IRCI’s ICH researchers’ networkと題し、アジア太平洋無形文化遺産研究センターが現在実施しているアジア太平洋各国の無形文化遺産保護に関する基礎的データ収集プロジェクトをより効果的に推進するための研究者ネットワークの形成について、日本(Shigeaki KODAMA発表)、タイ(Alexandra DENES発表)、韓国(Hanhee HAHM発表)、ベトナム(Thi Hien NGUYEN発表)における実態報告並びに課題と展望が報告された。
 
 以上の基調講演や研究発表に基づき、総合討論では、主に以下のようなことをめぐって意見が交わされた。
 
 一つには、無形文化遺産保護条約の施行に際してもっとも影響を受けるであろう、当該無形文化遺産を保持し保護するコミュニティのメンバー、すなわち「当事者」とはだれか、どの範囲まで含むのか、どういう意味で「当事者」なのかということをめぐる議論であった。「当事者」を一義的に決めるのではなく、個々の無形文化遺産が置かれた状況や文脈に応じて柔軟に決めるべきであろうことが確認された。二つ目は、ユネスコの無形文化遺産リストへの登録(ユネスコの無形文化遺産リストへの記載)は、無形文化遺産そのものについてどのような効果を持ち、影響を及ぼすのかということに関する議論であった。特に、登録(記載)がユネスコが目指しているような文化の多様性をもたらすのか、あるいは逆に、均質化(平準化)をもたらすのかという点については、必ずしも当初の目的(多様性の保持)が達成されていないのではないかという疑義も提出された。そして3つ目として、ユネスコの無形文化遺産への登録(ユネスコの無形文化遺産リストへの記載)が持つ政治的意味ないし効果について意見が交換された。登録(記載)が当該無形文化遺産を保持し、保護するコミュニティのメンバー(「当事者」)に文化的な意味でのアイデンティティの拠りどころをもたらすだけでなく、「当時者」や地方自治体、国に社会的、経済的のみならず政治的な意義や意味を持つことが指摘された。また、無形文化遺産保護リストに記載されることはメリットばかりではなくデメリットもあり、そのバランスをいかにとるかが重要であることも指摘された。4つ目として、各国政府主導の無形文化陰惨保護政策の持つメリットとデメリットが議論された。そして、5つ目として、無形文化遺産保護におけるNGOやNPO等のさまざまな民間のボランタリー組織が果たす役割について議論された。特に、NGOやNPO等がユネスコに対して意見や評価等をフィードバックすることの困難が指摘された。総合討論では以上の問題以外にもさまざまな問題が提示され、きわめて活発に意見が交わされ、盛況の内に国際シンポジウムは閉じた。
 
 今回の国際シンポジウムはこれに先立つ2つのシンポジウム、Glocal Perspectives on Intangible Cultural Heritage Local Communities, Researchers, States and UNESCO(「無形文化遺産をグローカルに見る——地域社会と研究者、国家、ユネスコの相互作用——」、2017年2月18日開催)と、「ユネスコの無形文化遺産保護をめぐる『当事者』と『文化仲介者』としての実務担当者の役割」(2017年5月13日開催)の成果に基づいて企画、開催されたものである(前者については、成果報告書として、Glocal Perspectives on Intangible Cultural Heritage Local Communities, Researchers, States and UNESCO, with the Special Focus on Global and National Perspectives[2017年、グローカル研究センター]がすでに刊行されている)。すなわち、ユネスコの無形文化遺産保護条約の施行ないし無形文化遺産の保護をめぐっては、その影響をもっともこうむるであろう「当事者」(無形文化遺産を保持する個人ないし地域社会の人びと)と、時として「当事者」ともなる無形文化遺産保護担当の実務者の意見や問題意識を明らかにするために、少なくとも彼らもシンポジウムに招き、意見を聞くべきであるとういう理念の具体化である。そしてまた、「当事者」を交えて無形文化遺産保護条約実施の効果や影響を評価し、それを何らかの形でユネスコにフィードバックする方途を探るという試みの具体化である。
 とは言え、今回の国際シンポジウムにおいても、ユネスコの無形文化遺産保護をめぐって「当事者」の参画が十分に確保されたり「当事者」からのフィードバックが十分に達成されたりしたわけではない。しかしながら、シンポジウムを企画した研究機関の一つとして、今回の国際シンポジウムが、ユネスコが進める無形文化遺産保護政策において「当事者」のさらなる参画を促し、また、「当事者」からユネスコへのフィードバックを見据えたさらなる議論の契機となったであろうことを期待する。
 
 なお、今回の国際シンポジウムの成果は「シンポジウム議事録」(Proceedings)としまとめ、できるだけ早い時期にグローカル研究センターから刊行する予定である。

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