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研究活動

経済研究所では、所員を中心に、「歴史」と「現状分析」という2つの視点から共同研究(プロジェクト)を進めています。

このプロジェクトでは、所員による研究会や学外の専門家を招いてのミニ・シンポジウムを開催し、その成果を『経済研究所研究報告』として随時公表しています。

2012年度のプロジェクト

第1部プロジェクト

研究テーマ:市場と統治-経済システムの長期的変動に関する歴史分析- (2012‐2014年度)

リーマン・ショック後の今日,いまだに「金融暴走」が実体経済に深刻な影響を及ぼし続けているだけではなく,統治のあり方に甚大な影響を及ぼしていることも明らかになってきている。中東・北アフリカ革命が世界的不況の深刻な影響と密接に関連していることは言うまでもない。また,ギリシアをはじめとするEU加盟国の深刻な債務超過問題は,当該国の国債を大量保有しているヨーロッパの諸銀行の信用収縮を通じて,実体経済に深刻な影響を及ぼすことが懸念されているだけではなく,EUそれ自体の存在にすら暗い影を落とすまでに至っている。先日,アメリカが台湾に新型戦闘機の売却を見送った背景には,武器売却それ自体の是非はともあれ,中国による米国債の大量保有がアメリカのアジア戦略の見直しを迫るまで至っていることを示していると言えよう。このように「金融暴走」が世界不況という実体経済への深刻な影響だけではなく,統治のあり方それ自体に激震を与えていることが今日的な特徴的であろう。現在、問題は金融市場に集中的に起きているが、根本的には、市場経済と統治のあり方との間に、大きな亀裂が生じつつあるということだと解釈できる。

 そこで、本プロジェクトでは、「市場と統治」という視角を設定し、歴史的な分析を行いたい。

かつて、「国家と市場」という視角から、さまざまな研究、議論が展開されていた時期があった。1980年代にマネタリズムが台頭し、90年前後に社会主義国が相次いで崩壊した頃である。市場と国家とのかかわり方を基準に、アングロ・サクソン型資本主義とライン型資本主義という類型化も行われた。現在から見れば、このような問題の立て方は、国家と市場とを対立的にとらえ、規制VS自由化という二項対立に単純化する議論であったと言わなければならないだろう。また、この議論は、せいぜい300年の歴史しか持たない「国民国家」という枠組みを絶対的で不変な存在として見る議論でもある。国境を一瞬のうちに越えて動く金融に国家が振り回させる現状を見るとき「国民国家」という枠組みの再検討は不可避であろう。

このプロジェクトでは、「統治」をつぎの2つの観点からとらえている。第1は、統治は国家理性による統治、経済主体による統治、理念・思想による統治などの重層的な構造を形成している。この観点は、ミシェル・フーコーからヒントを得ている。第2は、国家や帝国、あるいは国際経済システムを、1つのライフサイクルを持つ存在として、その変化のダイナミズムをとらえるという観点である。

本プロジェクトは、具体的には、以下のようなテーマに取り組む予定である。

①近代社会における統治は「生政治」(フーコー)であり、人口、保健、衛生の合理化についての解明が不可欠である。そこで、比較的研究条件が整っている、西欧および東アジアの近代についてこの問題を検討する。

②フランスの歴史家ブローデルが示したような超長期的なタイムスパンから、帝国や国家の統治とそのライフサイクルのダイナミズムを、市場経済との関連で検討する。また、アメリカを中心とする経済システムや、ケインズ主義的福祉国家のライフサイクルといった現代的な問題も、同様に、市場と統治との関係から検討を行いたい。

③イギリスの古典派経済学者ヒュームは、国家による債務の累積が国家破産をもたらすという強い懸念を抱き、統治を情念の持つ本源的なダイナミズムに規律を与えるものと考えた(ポーコック)。狭い意味の経済学にとどまらない、社会思想の観点から、経済主体と統治の問題を考察することが必要である。19世紀初頭の地金論争なども、貨幣理論の深化という経済理論史としてのみ捉えるのではなく,金融利益によって統治が左右されてしまうのではないかという当時広範に抱かれた懸念からこうした視角から再検討する必要がある。したがって,登場人物も,論争を扱った,経済学者だけにとどまらず,当時の政治家,政治思想家,文芸家や詩人にまで広がることになるであろう。

プロジェクト・メンバー(9名):

立川潔(リーダー)、明石茂生、浅井良夫、大森弘喜、花井清人、林幸司、平野創、村田裕志、角田俊男(客員所員)

第2部プロジェクト

研究テーマ:環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援(2012‐2013年度)

研究第2部では、「環太平洋地域における中小企業金融ならびに政府支援」というテーマの下に研究を進める。

近年、世界規模で未曾有の金融危機が発生し、わが国を含め各国の中小企業は政府支援なしでは経営の継続が難しい状況に陥っている。また、わが国の低成長への移行や繰り返される世界的マクロショックの中で、制度や慣習といった各国経済事情、金融現場に根ざしたシステムの再構築の重要性が活発に議論されている。そこで本研究では、第一に世界の中小企業金融における諸課題をどう克服すべきか、第二に、エマージング国の今後の中小企業支援において日本の高度経済成長での経験がどのように活かされ得るかについて、主に環太平洋地域の事例に基づいて分析することを目的とする。

過去2年に渡り、同テーマのプロジェクトにおいて、環太平洋地域における中小企業金融、政府支援、国際経済問題を意識しつつ、カントリースタディ、中小企業金融研究を進めた。メキシコ・グアダラハラ大学とのミニ・シンポジウムを含み、計8回のミニ・シンポジウムを実施し、成果の一部は「成城大学経済研究所研究報告」およびグリーン・ペーパーに掲載されている。

こうした研究的蓄積を基に、本研究では以下のプロジェクトを実施し、本研究テーマの総仕上げを行う予定である。第一に、間接金融中心の日本型システムと直接金融や市場型間接金融の割合の高いアメリカ型システムとを比較し、これらの環太平洋地域各国における有効性をデータ分析する。このプロジェクトの重要性は、今回の金融危機を契機に、先進的と見られていたアメリカ的アプローチについて中小企業金融面でも大幅な修正をせざるを得なくなってきたことからも窺える。第二に、経済の効率性を保つ上で、如何に貸し手・借り手間での情報の非対称性を緩和し、借り手の返済能力を評価するかが重要な課題の一つである。そのため、先進国では情報開示・ガバナンスの強化、途上国ではマイクロファイナンスなどの対応策が実施された。これらの対策の効果と課題を追求するため既存制度の比較研究を行う。第三に、中小企業金融面での国を越えた地域協力の可能性も研究課題として含める。

グアダラハラ大学との間の学術交流は継続・発展させ、ミニ・シンポジウムでアジアでの中小企業の可能性について議論を深める。さらに、新たな研究協力者を迎え研究の充実を図る。

プロジェクト・メンバー(11名):

福光寛(リーダー)、明石茂生、内田真人、小平裕、小宮路雅博、塘誠、中田真佐男、花井清人、林幸司、平野創、村本孜