小島孝夫研究室
メッセージ
大学1年次の夏休みに襟裳岬でコンブ採りのアルバイトをしたことが、私にとっての民俗学的関心の起点である。えりも町東歌別という集落の海岸沿いに建つコンブ小屋に住み込み、夜明けの流れコンブ拾いや各家が家族総出で行う口開け作業を経験した。この経験は海に生きる人々に対する共感に加えて、人間の資源利用に関する関心を深めていくことになった。これが契機となって、現在まで各地の沿海地域で漁撈技術や漁撈習俗に関する調査研究を続けている。
それらのなかで三重県志摩地方の潜水漁、千葉県安房地方の沿岸小型捕鯨に関する研究を現在も継続しており、前者は一人の海女のライフヒストリーをとおして、加齢と熟練という視点から潜水漁という生業が現在まで存続してきた背景を明らかにすることを試みている。後者は日本が商業捕鯨のモラトリアムを実施以前から現在にいたるまでの、小型捕鯨業の推移や鯨肉の流通や消費をめぐる地域社会の変容の確認を試みている。併せて、商業捕鯨再開にむけての世論形成の過程で、沿岸小型捕鯨が社会的に隠微されていく過程を確認していくことにもなった。
 こうした資源利用に関する漁撈習俗を研究する過程で新たな関心事となってきたのは、資源の利用や管理の主体となる集団のなりたちである。日本民俗学は社会のなりたちの前提として、ムラやイエという集団の概念を自明のものとしてきたが、更新性資源の利用慣行に注目していくと、当該集団は共同体的なるつながりに加えて、性差による個と個とのより自在なつながりが重層的に存在している。
近年はこうした実態を明らかにするする試みとして、東京都御蔵島、三重県神島、徳島県伊島・出羽島等の離島を対象に、女性たちによる陸上での生産活動に関する調査も継続している。離島という「小さな社会」にみられる個と個の自在なつながり方は、つながり方自体をそれぞれが選択する選択縁とでも呼ぶべきもので、現代社会における個と個とのつながり方とも通底している。襟裳岬で過ごした一夏をとおして、漠然と実感した海に生きる人たちに対する共感は、ここから発しているのではないかと考えている。
 大学院の授業でも、集団のなりたちについて再検討することを試みており、テキストの購読により集団の生成の論理を確認することに加えて、受講生の共同作業等により地域社会を題材とした具体的な検証作業も試みようとしている。

小島孝夫教授の主要著作

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