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  • 2017.07.12

    【開催報告】公開講演会 2020:Difficulties Imagining the Future(2020-未来を想像する難しさ)

公開講演会 2020:Difficulties Imagining the Future(2020-未来を想像する難しさ)
講師 エレズ・ゴラニ・ソロモン(Dr. Erez Golani Solomon)氏

 講演では、オリンピック・スタジアム(1964年、2020年)など具体的な建築例のスライドを通して、日本の近代都市建築をめぐる考え方や視点が示され、都市建築が将来どのように展開するかを予想するのがいかに難しいかが説明された。
 一つの視点は、都市の建築とheritage(過去から未来へと受け継いでいくべきもの)の関係である。これを語るために、講師は2020年オリンピックのメイン・スタジアム案の選考をめぐる物議を紹介した。当初、スタジアム設計選考委員会は、ザハ・ハディドの設計した宇宙船のような先端テクノロジーを強調した高さ最高75mに及ぶ巨大スタジアム案を採択した。ところがこの案はすぐに批判を浴びた。建築費がかかりすぎる。明治神宮の森など周囲の東京のheritageとの調和を欠くなどである。ところがheritage の点では、1964年の東京オリンピックの際には、まさにheritageである日本橋に覆いかぶさる高速道路の建築が許された。また1964年当時、ホテル・オークラなど周囲とそぐわない近代建築が続々とオリンピックに合わせて建設された。にも拘らず、2020年オリンピックのハディド案はheritageとの不調和を理由に排斥され、代わりに隈研吾の設計した案が採択されることになった。これは高さが25mと低く目立たず、建築費も安く、さらにはコンクリートよりも木を多用するところに特徴があり、これが地場に根差した「日本的な」建築でheritageを大切にするものと評価されて採択された。
 二つ目の視点は、都市のリズムないし周期である。たとえば東京タワーからスカイ・ツリーへと電波塔が代替わりするように、一定の周期をもって建築は更新ないし建て替えられていく面がある。2020年オリンピックのメイン・スタジアム建設は、この視点からも捉えることができる。その際、更新される時代の要請に合わせて新たに建築物をつくる必要がある。1960年代には問題になっていなかった持続可能性への配慮といったことが、2020年のスタジアム建設には求められる。ハディド案はこの点でも問題があり、案は却下されることになったともいえる。この点は、採用されなかった2020年スタジアムの他の案にもいえることであり、持続可能性の点で排斥されたものが多い。
 三つ目の視点は、建築の意図せざる失敗である。建築家が良かれと設計して作っても、それが予期せぬ批判や不評を買い、失敗してしまうことがある。日本は、都市建築の規制がヨーロッパと異なるため、個々のビルを個性的に設計できる自由度が高い。ハディドの設計したスタジアムも個性的で、それぞれに皆違うことを競い合う日本の風土に合った面もあったのだが、度を越したために拒否されてしまったということもできるだろう。
 このように都市建築は、一方で個性を競って自由にできる面もあるが、他方では予期せぬさまざまの視点や時代ごとの要請から制約されつつ展開するのであり、その発展方向は予想が難しい。

 以上の講演の後、聴衆との間で質疑応答がなされた。例えば、コンクリートから木へというのがどうして建築において重要なのかという質問があった。講師は、そもそも石からガラスへなど建築材料の変化が建築史においては注目されること、またコンクリートと木についていえば、コンクリートは近代文明の普遍的材料であり、戦後の復興でどの国でも多用されたのに対して、木は自然の近代という時代に関係のない資材であり、かつ日本などでは土地の人々アイデンティティとも重なるという点で特徴があるので注目されるのだと答えた。